商標の類否 類似それとも非類似なのかの判断基準

商標の類否

日本の商標法では、商標の類否(るいひ)の判断すなわち商標同士が類似なのか非類似なのかを特許庁や裁判所が判断することになっています。そこには商標自体の取り扱い方に所定のルールがあります。この種のルールは、商標登録の出願段階においては、他人の周知商標、登録商標に基づく拒絶理由に対する中間処理の際に考える必要があり、さらには登録異議申立、登録無効審判事件、商標権侵害事件などの商標権の発生後においても、特許庁や裁判所の判断の基準となります。以下、特許庁の発行した”商標審査基準(第5版、旧版)”を引用しながら商標の類似非類似の判断について説明します。
商標の類否

類否判断の3要素

外観、称呼および観念
商標の類似非類似の判断は、商標の有する外観、称呼および観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察して決められます。その他の部分に紛らわしいところが無い場合であっても、外観、称呼および観念のうち1つでも類似であれば類似商標となり得ます。

隔離的観察
また、これら要素のうち外観は、全体的で隔離的な観察により判断されます。ここで隔離的観察とは、取引における経験則に基づき場所と時間を異ならせて類似・非類似を観察する方法であって、この隔離的観察が2つの商標について判断する場合の自他商品の識別の状況に即したものと考えられています。1つの商標を見て、その内容を記憶して、その最初の商標が見えない状態としたところで、比較する商標を観察します。2つの商標を並べて観察する対比観察よりも、隔離的観察では、細部に拘らずに全体的な感覚で類否を決めることになります。

類否判断の主体

誰の目による判断か?
特定の誰かとうことではなく、客観的な一般的取引者・需要者が用いる通常の注意力を判断基準として商標の類否を判断します。審査段階で審査官がこの一般的取引者・需要者になりかわって判断し、侵害訴訟では裁判官が一般的取引者・需要者になりかわって判断するものとされています。この点について、前記審査基準では、”商標の類似非類似の判断は、商標が使用される商品の主たる需要者層(たとえば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。 ”と記載されています。

全体と要部

商標のすべての部分が一様に機能するわけではありません
商標の構成要素に着目すると、部分的に、商標の中で中心的な識別力を有する部分が存在し、これを抽出して対比することが行われています。この商標の中で中心的な識別力を有する部分が要部です。商標の類似非類似の判断においては全体観察と並行して要部についても観察すること(いわゆる要部観察)が通常行われます。

類似と非類似 商標の類否
類似か非類似か

類否観察の例

(以下、”審査基準(第5版)”からの抜粋 と 判決例@) 

A.振り仮名を付した文字商標

振り仮名を付した文字商標の称呼については、次のように審査基準(旧版)に記載されています。
(イ) たとえば、「紅梅」のような文字商標については、「ベニウメ」と振り仮名した場合であっても、なお、「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ロ) たとえば、「白梅」における「ハクバイ」および「シラウメ」のように2以上の自然の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。
(ハ) たとえば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名と して付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。

B.結合商標

結合商標の類似は、その結合の強弱の程度を考慮し、たとえば、次のように判断します。ただし、著しく異なった外観、称呼または観念を生ずることが明らかなときは、この限りではありません。

B-1. 形容詞的文字を有する結合商標

形容詞的文字(商品の品質、原料、材料等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似します。

(例)類似する場合 「スーパーライオン」と「ライオン」

「銀座小判」     と「小判」

「ピンクレデイ」    と「レデイ」

@ 「Lumideluxe」 と 「ルミスーパー」

ただし、@「ワイキキパール」と「パール」は非類似(化粧品、香料)

B-2. 大小のある文字を有する結合商標

大小のある文字からなる商標は、原則として、大きさの相違するそれぞれの部分からなる商標と類似します。

(例)類似する場合  「富士白鳥」 と 「富士」 または 「白鳥」

「サンムーン」 と 「サン」 または 「ムーン」

B-3. 著しく離れた文字の部分からなる結合商標

著しく離れた文字の部分からなる商標は、原則として、離れたそれぞれの部分のみからなる商標と類似します。

(例)類似する場合 「鶴亀 万寿」 と 「鶴亀」 または 「万寿」

B-4. 簡略化される可能性の有る文字の部分を有する結合商標

長い称呼を有するため、または結合商標の一部が特に顕著であるため、その一部分によって簡略化される可能性がある商標は、原則として、簡略化される可能性がある部分のみからなる商標と類似します。

(例)類似する場合  「cherryblossomboy」 と 「チェリーブラッサム」

「chrysanthemumbluesky」 と 「クリサンシマム」 または 「ブルースカイ」

B-5. 慣用される文字と他の文字とを結合した結合商標

指定商品について慣用される文字と他の文字とを結合した商標は、慣用される文字を除いた部分からなる商標と類似します。

(例)類似する場合

清酒について 「男山富士」 と 「富士」

清酒について 「菊正宗」 と 「菊」

折りたたみナイフについて 「桜肥後守」 と 「桜」

B-6. 著名な商標と他の文字とを結合した結合商標

指定商品について著名な商標と他の文字とを結合した商標は、原則として、その著名な商標と類似します。

B-7. 商号商標を結合した結合商標

商号商標 (商号の略称からなる商標を含む。以下同じ。)については、商号の一部分として通常使用される「株式会社」 「商会」 「CO.」 「K.K.」 「Ltd」 「組合」 「協同組合」 等の文字が出題に係る商標の要部である文字の語尾または語頭のいずれにあるかを問わず、原則として、これらの文字を除外して商標の類否を判断します。

C.要部を含む商標

(1) 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さく表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼または観念を生ずるものとします。
(2)商標が色彩を有するときは、その部分から称呼または観念を生ずることがあります。
(3)商標の要部が、それ自体は自他商品の識別力を有しないものであっても、使用により識別力を有するに至った場合は、その部分から称呼を生じます。

D.商標の称呼類否の判断

商標の称呼の類否を称呼に内在する音声上の判断要素および判断方法のみによって判断するときには、たとえば、次のD-1 原則およびD-2 基準のようにします。

D-1 原則

商標の称呼類否判断にあたっては、比較される両称呼の音質、音量及び音調ならびに音節に関する各判断要素のそれぞれにおいて、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに、両商標が特定の観念のない造語であるか否か(たとえば、明らかな観念の違いによってその音調を異にしたり、その称呼に対する注意力が異なることがある)を考慮し、時と所を異にして、両商標が称呼され、聴覚されるときに聴者に与える称呼の全体的印象(音感)から、たがいに相紛れるおそれがあるか否かによって判断します。

D-1-a.音質(母音、子音の質的きまりから生ずる音の性質)に関する判断要素
i)母音の音の性質

相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似しているか〔たとえば、1 音の相違にあって(i)その音が中間または語尾に位置し、母音を共通にするとき(ii)子音が調音の位置、方法において近似 (ともに両唇音であるとか、ともに摩擦音であるとかのように、子音表において、同一または近接する調音位置、方法にある場合をいう。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある。)し、母音を共通にするとき等においては、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。〕

ii)子音の音の性質

相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似しているか〔たとえば、1音の相違にあって(i)相違する音の子音がともに50音図の同行に属しその母音が近似 (たとえば、口の開き方と舌の位置の比較から、母子エはアとイに近似し、母音オは アとウに近似する。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある。)するとき(ii)相違する音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)と半濁音(パ 行音)、清音(カ、サ、タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体の音感が近似して聴覚されることが多い。〕 等が挙げられます。

D-1-b.音量(音の長短)に関する判断要素

(イ) 相違する音がその前母音の長音であるか(長音の有無にすぎないか)
(ロ) 相違する音がその後子音の長音であるか(促音の有無にすぎないか) 等が挙げられます。
音の長短は、長音、促音が比較的弱く聴覚されることから、音調(音の強弱)と関係があり(通常、長音、促音の前音が強く聴覚される)、また、長音、促音は発音したときに1単位的感じを与えることから、1音節を構成し音節に関する判断要素とも関係があります。

D-1-c.音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素

(イ) 相違する音がともに弱音(聴覚上、ひびきの弱い音)であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい)
(ロ) 相違する音がともに中間または語尾に位置しているか(中間音、語尾音は比較的弱く聴覚されることが多い)
(ハ) 語頭もしくは語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか(これが強音であるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い)
(ニ) 欧文字商標の称呼において強めアクセントがある場合に、その位置が共通するか等が挙げられます。 音の強弱は音自体(口の開き方の小さな音、イ・ウ、口を開かずに発せられる音、ム・ン、声帯が振動せずに発せられる音、フ・ス等は聴覚上、明瞭でないために弱音とされる場合)からだけでなく、相違する音の位置、全体の音数 の長短等によって、相対的にその強弱が聴覚されることが多いです。(たとえば、相違する1音が音自体において上記のような弱音であっても、その前後の音も弱音である場合には弱音とはいえない場合がある。)

D-1-d.音節に関する判断要素

(イ) 音節数(音数。仮名文字1文字が1音節をなし、拗音は2文字で1音節をなす。 長音(符)、促音、撥音もそれぞれ1音節をなす。)の比較において、ともに多数音であるか(1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多いです。)
(ロ) 一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)において共通性があるか(その共通性があるときには、全体の音感が近似して聴覚されることが多い)等が挙げられます。

Similarity?
Similarity?

D-2 基準

以下の基準(1)乃至(8)(は、両商標が称呼上、類似すると判断された事例にあって判断を構成した主たる要素として、また、各事例に共通する要素となるものを整理し、列挙したものです。 両商標が本D-2 基準のいずれかに該当するときは、原則として称呼上類似するものとされています。基準(1)乃至(8)(及びそれらの事例)について、上記原則D-1の判断要素との関係は、基準(1)乃至(3)が主として音質に関するものであり、基準(4)は主として音調、基準(5)は、主として音量、基準(6)及び基準(7)は主として音節、基準(8)は、各判断要素に関するものです。なお、上記原則D-1の判断要素に記載されていないが考慮すべき判断要素として、発音の転訛の現象(たとえば、連続する2音が相互にその位置を置換して称呼されるような場合)が挙げられます。

なお、基準(1)乃至(8)に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときには、例外とされる場合があります。

(イ) 語頭音に音質または音調上著しい差異があるとき
(ロ) 相違する音が語頭音でないがその音質(たとえば相違する1音がともに同行音であるが、その母音が近似しないとき)音調(たとえば、相違する音の部分に強めアクセントがあるとき)上著しい差異があるとき
(ハ) 音節に関する判断要素において (i) 称呼が少数音であるとき(3音以下) (ニ) 語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)が明らかに異なるとき。 なお、基準(6)及び基準(7)は、基準(1)乃至(5)に該当しない場合に適用されます。

D-2-a.音質に関する基準

(1) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするとき
スチッパー * SKiPPER  (スキッパーの称呼)
VANCOCIN/バンコシン * BUNCOMIN/バンコミン
ミギオン * ミチオン
但し、@ コザック とコダックは非類似とする判決例あり。
(2) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するとき
アスパ * アスペ
アトミン/Atomin * ATAMIN/アタミン
VULKENE(バルケンの称呼) * VALCAN (バルカンの称呼)
但し、@ ソンテックス と シンテックス は非類似とする判決例あり。
(3) ともに、同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき
HETRON(ヘトロンの称呼) * PETRON/ペトロン
KUREKA/クレカ * GLECA/グレカ
サンシール * SANZEEL/サンジール

D-2-b.主として音調に関する基準

(4) 相違する1音がともに弱音であるか、または弱音の有無の差にすぎないとき
DANNEL(ダンネルの称呼) * DYNEL(ダイネルの称呼)
山清/やませい * ヤマセ
VINYLA (ビニラの称呼) * Binilus (ビニラスの称呼)

D-2-c.主として音量に関する基準

(5) 相違する1音が長音の有無、促音の有無または長音と促音、長音と弱音の差にすぎないとき
レーマン * L′eman / レマン
コロネート * CORONET (コロネットの称呼)
たからはと * タカラート

D-2-d.主として音節に関する基準

(6) 同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるとき
サイバトロン * サイモトロン
(7) 比較的長い称呼で1音だけ多いとき
CAMPBEL (キャンプベルの称呼)* Cambell キャンベル
BPLEX/ビプレックス * ビタプレックス/ VITAPLEX

D-2-e.各判断要素に関する基準

(8) その他、全体の音感が近似するとき
(イ) 2音相違するが上記(1)ないし(5)に挙げる要素の組合せであるとき
COREXIT(コレクシットの称呼)* コレスキット
ビセラジン * ビゼラミン
フルーゲン * Frigen /フリゲン/ふりげん
天神丸(テンシンガンの称呼) * 電信丸(デンシンガンの称呼)
COMPA/コンパ * COMBER/コンバー
(ロ) 相違する1音が拗音と直音の差にすぎないとき
SAVONET/サボネット * シャボネット
(ハ) 相違する音の一方が外来語におこなわれる発音であって、これと他方の母音または子音が近似するとき
TYREX(タイレックスの称呼) * TWYLEX (トウイレックスの称呼)
FOLIOL(フォリオールの称呼) * HELIOL ヘリオール
(ニ) 相違する1音の母音または子音が近似するとき
サリージェ/SALIGZE * Sally Gee/ (サリージの称呼)
CERELAC(セレラックの称呼) * セレノック/SELENOC
(ホ) 発音上、聴覚上印象の強い部分が共通するとき
ハパヤ * パッパヤ
(ヘ) その他
POPISTAN/ポピスタン* HOSPITAN/ホスピタン
@日曜夕刊 (横書き)* 夕刊日曜 (縦書き) (定期刊行物)
「注.( )内の称呼は審決等で認定されています。」

商品の類否を判断

商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品審査基準によるものとされています。

(イ) 生産部門が一致するかどうか
(ロ) 販売部門が一致するかどうか
(ハ) 原材料および品質が一致するかどうか
(ニ) 用途が一致するかどうか
(ホ) 需要者の範囲が一致するかどうか
(ヘ) 完成品と部品との関係にあるかどうか

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商標の類否 FAQs

商標の類似って何ですか?

2つの商標を混同してしまう関係を言います。商標は自他商品役務を区別するために使用されますが、似ている場合には混同してしまうことになります。商標法上は、先に登録されている商標と類似する商標は登録できないことになっています(商標法第4条第1項第11号)。また、登録されている商標に類似する商標を使用する行為は原則として侵害行為となり、差止請求や損害賠償請求の対象となります。

商標の類似はどのように判断されますか?

商標の観察方法として、標章(マーク自体)の称呼(sound)、外観(apperance)、概念(meaning)の3つの要素を重視します。これらの1つでも似ていれば全体として類似(likelihood of confusion)と判断される傾向にあります。また、最終的には一般的取引者・需要者の視点にたって総合的に判断されるものとなりますが、商標の一部だけに自他商標識別力がある場合には、主要部(あるいは要部)とそれ以外に分けて考えることも行われています。

商品・役務の類似とは何ですか?

2つの商標が類似と判断されるためには、標章(マーク自体)が類似で、かつ指定商品・指定役務の少なくも1部が類似であることが原則的に要件となります。審査段階では、類比判断は類似群コードの同一や備考類似に基づいて自動的に当てはめることができますが、裁判段階では侵害行為の実際の商品・役務に鑑み個別に分析することになります。類似商品審査基準によれば、(イ) 生産部門が一致するかどうか (ロ) 販売部門が一致するかどうか (ハ) 原材料および品質が一致するかどうか (ニ) 用途が一致するかどうか (ホ) 需要者の範囲が一致するかどうか (ヘ) 完成品と部品との関係にあるかどうか について検討されます。

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