日本有数のソムリエの一人は特許庁長官であるとする説がある(?)。これは平成6年の法律改正で商標法上、日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章を有する商標であって、その産地以外の地域を産地とするものについてはその登録ができないという規定[商標法第4条第1項第17号]があるからである。すなわち、特許庁長官はぶどう酒等の地理的表示について指定を行う権限があり、その指定を受けた地域名をマークに用いたぶどう酒等を他の地域産ながらも登録するということはできない。簡単にいうと、仮に東京がぶどう酒産地として特許庁長官に指定されると、大阪で作られたぶどう酒は"東京"や東京ワイン"なる登録商標を受けることができないことになる。地域としてぶどう酒若しくは蒸留酒の製造に取り組むところは、特許庁長官に指定を受けるための産地指定申請書を提出する。特許庁長官はその申請があったときは審理を開始するが、その際、ぶどう酒若しくは蒸留酒の品質、社会的評価も勘案するものとされ、まさにこれはソムリエとしての役割を日本国民を代表して担うものといえる。ちなみに、「ぶどう酒」にはアルコール強化ぶどう酒が含まれ、「蒸留酒」には泡盛、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、ブランデー、ラム、ジン、カオリャンチュー、パイカルなどが含まれるが、リキュールは含まれない。

地域を商品の品質とともに保護する法制度はフランス、イタリア、ドイツにもみられ、むしろ日本のものが後発である。フランス産の最高クラスのワインにはA.O.C.(Appellation d’Origine Controlee)が与えられ、それぞれの原産地で栽培されるブドウの品種や、単位面積あたりの最大収穫量、アルコール度数などで規制され、原産地名称国立研究所の審査を合格したものだけがAOCと称することができる。イタリアではD.O.C.G.(Denominazione di Origine Controllata Garantita)やD.O.C.(Denominazione di Origine Controllata)がある。またドイツではQ.m.P.(Qualiatswein mit Pradikat)やQ.b.A.(Qualiatswein Bestimmer Anbaugebiete)が同様な制度として存在する。

ところで日本酒はどうかというとワインほど産地と品質が結びつかないことから、現在商標法の統制下には無い。せいぜい正宗と男山などが慣用商標とされているぐらいで、特許庁長官(実際は審査官)はワイン好きだが、日本酒はいま一歩というところかもしれない。ちなみに良い日本酒を造るには、第一に酒造好適米の品質や仕込や発酵などの醸造法に技術があり、例えば山田錦などの酒造好適米は多くは産地から運ばれるものであるために、産地と品質は必ずしもマッチしないのであろう。この点に関して、最近の東京高裁の判決が一石を投じている。平成11年10月29日 東京高裁 平成一〇年(ネ)第三七〇七号商標権侵害差止等請求控訴事件(筑後の国寒梅・筑後の寒梅商標)である。事件の1つの争点は日本酒の名称に地名(たとえばこの事件では筑後の国)が含まれている場合にそれが要部として機能するのか否かという点であり、東京高裁は「日本酒の名称に地名が含まれている場合には、取引者・需要者は、その地名に着目するのであるから、その地名部分は取引者・需要者の注意を惹く部分として要部となり得るものであり、かつ、他の部分(地名部分が要部となるからといって、他の部分が要部とならないものではないことはいうまでもない。)と相俟って自他商品識別機能を果たし得るものと認めることができる。」と判断した。これが直ちに日本酒を産地指定統制に格上げするべきと裁判所が判断したということではないが、裁判所の方が行政当局より日本酒びいきなのかもしれない。

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