米国商標 移転・名称変更手続

米国商標 移転と名称変更

米国の商標については、その登録や出願を他人に譲渡することができますが、日本の手続とは異なり、いくつかの制限があります。その1つは、商標登録や出願の譲渡は、その業務上の信用(goodwill)と共に譲渡するものとされていて、業務上の信用を伴わない譲渡は出願のベースや登録に拘わらず効力がないと考えられ、その結果、商標登録も失効します。特にITU(Intent To Use)出願(§1(b))については、その商標についての業務(business)が存在するとき、その業務自体の全部若しくは一部を商標と共に移転する場合を除いて、出願の基礎(base)を1(a)に変更して使用証明書(allegation of use)を提出しないかぎりは移転することができず、その結果、移転が無効なだけではなく、その商標登録は無効となります。また、国際登録出願による米国保護拡張がなされた出願や登録については、譲受人がマドリッド制度の加盟国に国籍を有するか、加盟国に拠点を有する個人若しくは法人に限定されます。

米国商標 移転・名称変更

米国特許商標庁への登録

出願や登録を譲渡する場合、通常米国特許商標庁への登録(Recording)が行われます。登録しなければ効果が生じない訳ではなく、米国特許商標庁への登録は第3者対抗要件です。また、登録自体が譲渡の有効性を示すものではないとされています。例えばA社からB社への商標を移転させる場合、登録しなくとも譲渡契約書があれば商標権は譲渡されることになりますが、仮に同じ社が後でC社に譲渡契約して、その譲渡について米国特許商標庁へ先に登録した場合には、B社は商標権の享有について主張できないことになります。従いまして、商標権の譲渡手続は、実務上、米国特許商標庁への登録が重要です。米国特許商標庁は、登録された譲渡の書面について精査することはなく、カバーシートがあるかなどの最小限の要件が満たされているか、費用を払ったのかのチェックをするだけです。提出された譲渡等の登録を取り消すことはできません。必要な場合は、訂正の登録を行います。譲渡や名称変更などのそれぞれ手続でその根拠となる書面を添付することになりますが、英語以外の言語で作成された書面については翻訳者が署名した翻訳文を添付しなければならないと規定(37C.F.R.§3.26.)されています。米国特許商標庁は、登録された書面については速やかに公開します。登録できない書面については、 “Notice of Non-Recordation”を通知して返却されることになりますが、再度訂正しながらの提出も可能です。

米国商標の譲渡(Assignment)

米国商標の譲渡の登録手続は、ETASを利用し申請書(Cover sheet)への記載と、譲渡を証する書面を添付すれば完了します。現在はETASを利用して提出できますので、添付する譲渡を証する書面もTIFFかPDFのファイル形式で提出できます。譲渡の種類としては、3種類あり、1)全部譲渡(Assignment of the entire interest and the goodwill)、2)一部譲渡(Assignment of an undivided part of assignor’s interest)、及び3)遡及的譲渡(Nunc Pro Tunc Assignment)があります。このうち一般的は譲渡は全部譲渡であり、譲渡人(assignor or conveying party)から譲受人(assignee or receiving party)に権利が業務上の信用と共に移転されます。一部譲渡の場合、元の所有者の持っていた権利の一部だけが移転します。遡及的譲渡は、登録手続は今するけれど、その実際の移転は過去に行われている場合の手続になります。申請書に添付する譲渡を証する書面は、業務の売却などの実際の契約書をコピーして提出することもできますが、通常は米国特許商標庁への記録用に署名した譲渡書を提出します。譲渡書にはgoodwillと共に移転させることが明記される必要があり、典型的には次の言葉が用いられます。

“Assignor does hereby assign to Assignee all right, title and interest in and to U.S. Reg. No. ____________, together with the goodwill of the business symbolized by the trademark.”

また、前述のように、米国商標 移転としてITU出願の移転の場合には、事業(Business)と共に移転させる必要があり、典型的には次の言葉が用いられます。

“Assignor does hereby assign to Assignee the mark in U.S. Trademark Application No. ____________, together with the goodwill of the business symbolized by the trademark. This application is being assigned as part of the entire business or portion thereof to which the mark pertains, as required by Section 10 of the Trademark Act, 15 U.S.C. § 1060.”

申請書に添付する譲渡を証する書面には、当事者の署名が必要ですが、公証は必要ではありません。日本の法人同士の移転でも、英語の譲渡書に当事者が署名した方が手続が簡素化します。もし日本語の譲渡書の場合には、翻訳が必要となり、翻訳者の署名が少なくとも必要で、多くの場合翻訳者の署名付きの宣誓書(Declaration)が添付されます。なお、国際登録で米国で保護拡張がされた登録に関しては、国際事務局に対して譲渡(MM5)や名称変更の手続(MM9)を行います。米国特許商標庁には国際事務局からの連絡があるものとされており、国際事務局にも譲渡などを証する書面を提出する必要はありません。

米国商標権者/出願人の名称変更(Change of Name)

米国商標権者/出願人の名称変更は、商標権者/出願人自体は変わらないのですが、その名称が変わる場合です。商標権者/出願人の名称変更手続は、ETASを利用して申請書(Cover sheet)への記載を行い提出することで完了します。名称変更には申請書だけで良いと規定されています(37 C.F.R. §3.25(b))。従いまして、証拠書類として日本法人の登記簿謄本を提出することもできますが、証拠書類が全く無くても手続可能です。出願人が名称を変更する場合、米国特許商標庁が登録証を発行する準備をする前にその変更を登録すべきとされています。ETASでの名称変更手続には必要な料金(fee)、最初の1登録が40USD、続きは追加の1登録ごとに25USDを払うことで完了します。支払いには主要なクレジットカードを使用することができます。

米国商標権者/出願人の住所変更(Change of Address)

米国商標権者/出願人の住所変更は、ETASを用いてOtherで”change of address”を入力して進める方法もありそうですが、TEASのChange of Owner’s Addressを利用でき、後者のTEAS手続の方が早く簡単です。

米国商標権者/出願人の合併(Merger)

米国商標権者/出願人の合併については、ETASを利用し申請書(Cover sheet)への記載と、法的な合併を証する書面を提出する必要があります。日本法人の合併の場合、閉鎖事項全部証明書(吸収合併)や履歴事項全部証明書の写しに、翻訳者の署名についた翻訳文を添付してTIFF若しくはPDFファイルで提出します。翻訳者の宣誓書は一例としては次の言葉を用います。

”I,(name)(address)    , hereby declare and state that I well understand the English and Japanese languages and that the attached documents are fully true and faithful translation made by me of the original documents attached hereto.”

翻訳証明書(Certificate of translation)の場合は、上記の”hereby declare and state”の部分を”do hereby certify”に置き換えながら、

”I,(name)(address)    , do hereby certify that I am fluent in English and Japanese and that, to the best of my knowledge and belief, the attached translation is a true and accurate translation of the original documents, translated by myself.”

とすることもできます。これらの翻訳文に、従来はNotary Publicや公証を要していましたが、現状は公証などは無くても翻訳者の署名があれば提出には問題ありません。

米国商標権者/出願人の法人組織変更(Entity Conversion)

例えばCorporationからLimited Liability Company或いはその逆の変更や、イリノイ州の会社からネバダ州の会社への変更などの他州への移籍に対応します。日本の法人の場合には、現在事項一部証明書などの登記簿謄本を添付し、翻訳者の署名についた翻訳文を添付してTIFF若しくはPDFファイルで提出します。

ETAS/eTAS (Electronic Trademark Assignment System)

米国商標 移転としての米国商標の譲渡・名称変更手続の書類は紙で提出(申請書)することもできますが、ETASと呼ばれるシステムを介して米国特許商標庁の譲渡登録部(Assignment Services/recordation Branch)に電子的に提出可能です。ETAS最初の画面でAccess to ETAS formsのリンクをクリックし、Guidelineのページの下部のstartボタンをクリックすると下の画面のTypeを選択する画面が表示され、ラジオボタンでConveyance Typeを選択します。

ETAS画面
ETAS画面

同じ画面で、Securiy Interest (担保物権), Mortgage (譲渡抵当権), Lien (抵当権), License (使用契約)についても登録可能です。基本的には、ETASを進めることで申請書(cover sheet)がコンピュータ上に形成されることになり、それに法的な証拠書類や翻訳文をPDF若しくはTIFFファイルで添付するように構成されています。startボタンと並んでResubmissionボタンもあり、Non-Recordation Noticeを受け取った提出者が再提出に使用することができます。

(2022.8.3 追記)

USPTO’s online portals to accept all Assignment Recordation and Examination requests on August 1

情報源: USPTO modernizes patent, trademark assignment request process | USPTO

商標譲渡検索 (Trademark Assignment Search)

Trademark Assignment Searchにより米国特許商標庁の譲渡登録部に提出された書類を検索して表示させることができます。画面では3つのタブが選択でき、Quick Lookup, Search, Advancedを選ぶことができます。検索結果を表示する画面ではキーワードを含むレコードが一覧表示されます。画面左側には、filterが表示されますので、選択していくことで検索結果の絞り込みが可能です。Advancedでは、WildCard Searches(?*), Range Searches(TO), Fuzzy Searches(~), Boolean Operator(AND NOT OR + -)を使用することができます。

TM Assignment Search
TM Assignment Search

米国特許商標庁の譲渡登録部は、Reel and Frame numbersで書類を管理するようになっており、提出された書類には、全て固有のReel番号とFrame番号が付与されています。これは従来のマイクロフィルム等で管理していたときのなごりと言われています。Assignment Searchでは、添付の書類も参照することができますが、そのPDFファイル名にはリール番号とフレーム番号が含まれています。Trademark Assignment Searchのデータベースは1955年からのデータを有しています。

手続費用

有明国際特許事務所は直接手続き致します。
有明国際特許事務所 では、弁理士と米国弁護士の資格により、特許庁 (JPO)と米国特許商標庁(USPTO)にそれぞれ直接手続できます。

有明国際特許事務所の米国商標 移転・名称変更手続についての費用(料金表)†

項目 事務手数料 政府費用
移転登録・名称変更 27,500円(登録毎:記録用契約書作成を含みます。)+翻訳実費(登記簿などの翻訳が必要な場合) 40ドル(single case)+25ドル(addition per case)
86 / 100
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