商標登録+α: 拒絶理由通知に対する意見書記載例#84

特許庁審査官等から受けた拒絶理由通知等に対し、反論した「意見書、審判請求書」の具体例を小川特許商標事務所のサイトから転載しております。

本願商標:「ケータイ OTP」 (審判)

1.出願番号  商願2006-29206(不服2006-28569)
2.商  標  「ケータイ OTP」
3.商品区分  第9類 電子計算機用プログラム ほか
4.適用条文 商標法第3条第1項第3号、同第4条第1項第16号
5.拒絶理由  本願商標は全体として「携帯電話機用使い捨てパスポート」程度の意味合いを認識させるから、単に商品の品質を表示するに過ぎない。

拒絶理由通知 出願商標・商標登録第5078625号
出願商標・商標登録第5078625号

6.不服審判における反論(請求の理由)拒絶理由通知

 【手続の経緯】
 出     願   平成18年 3月31日
 拒絶理由の通知   平成18年10月25日
  同 発送日   平成18年10月26日
意  見  書   平成18年11月20日
拒 絶 査 定   平成18年12月13日
 同 謄本送達   平成18年12月14日
  【拒絶査定の要点】
拒絶査定の理由は、“この商標登録出願は、平成18年10月25日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認めます。なお、出願人は、意見書において種々述べていますが、前の拒絶の理由で開示したように、本願商標は、「ケータイ」の文字部分は、「携帯電話機」に通じる語を、「OTP」の文字部分は、「発行してもらってから1回だけしか利用できないパスワードのこと(使い捨てパスワードともいう。)」(秀和システム編集部著者「通信・ネットワーク用語事典 2003~2004」株式会社秀和システム、2003年5月5日初版第1版発行、405頁)の意味合いのある英語「Onetime Password」の略語を連綴したものと認められ、指定商品との関係において、これよりは、「携帯電話機用使い捨てパスワード」程度の意味合いを理解、認識させるものでありますから、これを本願の指定商品中、「前記に照応する商品」に使用されたときは、単に、商品の品質を表示するにすぎないものと認めます。出願人は、登録例を挙げて、本願商標も登録されるべきである旨主張していますが、本願商標とは同一の事案とは認められず、これを本願商標に採用することは適切ではなく、本願商標については、前示のとおり判断するのを相当とします。したがって、さきの認定を覆すことはできません。”というものであります(商標法第3条第1項第3号、同第4条第1項第16号)。
  【本願商標が登録されるべき理由】
 しかしながら、本出願人は、本願商標の「ケータイOTP」は、商品の品質を表示する言葉ではなく、十分に自他商品識別標識として機能する商標であると考えますので、上記認定には承服できず、ここに審判を請求し、再度の御審理を願う次第であります。
(a)本願商標の構成
 本願商標は、願書の商標見本からも明らかなように、片仮名文字と英文字で「ケータイOTP」と一連に横書きした態様から成るもので、第9類「自動販売機,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」を指定商品とするものであります。
(b)審査官の認定に対する反論
(b-1)
審査官は、本願商標の「ケータイ」の文字部分は「携帯電話機」に通じる語を、「OTP」の文字部分は「発行してもらってから1回だけしか利用できないパスワードのこと(使い捨てパスワード)」の意味合いのある英語「Onetime Password」の略語を連綴したものと認められ、指定商品との関係において、これよりは「携帯電話機用使い捨てパスワード」程度の意味合いを理解、認識させるものであり、単に商品の品質を表示するにすぎないと指摘しております。
 しかしながら、本願商標は、先の意見書でも述べたように、前段の「ケータイ」の文字からは「携帯電話機」に通じる語を連想させるかも知れないものの、後段の「OTP」の文字部分からは、本願の指定商品との関係において「Onetime Password」の略語を、取引者・需要者に直ちに認識させるものではないと思料します。
 成る程、「One Time Password」を略すときには、これらの頭文字を並べて「OTP」と表記するのかも知れません。しかし、そうだからと言って、その逆もまた真なりとは限りません。「OTP」の三文字から「Onetime Password」の言葉を直ちに連想させるものではないと思います。なぜなら、「OTP」の文字は、「Onetime Password」の略語であると、この指定商品の分野における取引者・需要者間に浸透している訳ではないからです。審査官は、「通信・ネットワーク用語事典 2003~2004」に、「OTP」について「発行してもらってから1回だけしか利用できないパスワードのこと(使い捨てパスワードともいう。)」と説明があることから、本願商標後段の「OTP」は「Onetime Password」の略語であると主張しています。しかし、例えば、「OTP ROM」の「OTP」は「One Time Programable」を表すものであり、また、Linuxとオープンソースを中核としたオープンなシステム、アーキテクチャ、テクノロジーを表す「OTP」は「Open Teck Press」の略語であり、決して「Onetime Password」の略語ではありません。つまり、本願指定商品の分野において、「OTP」が全ての場合において「Onetime Password」の略語であるとは限りません。
 そして、仮に「OTP」が「Onetime Password」の略語だとしても、取引者・需要者間においては、「OTP」を表現するのに、普通一般に「Onetime Password」(ワンタイムパスワード)なる表現を用いてはおりません。それ故、取引者・需要者は、「OTP」の文字から「Onetime Password」を連想することはありません。「OTP」の文字から連想し称呼するのは、単なるアルファベットの「OTP」と「オーティーピー」の称呼だけであります。この文字をみて「ワンタイムパスワード」と称呼したり、全体を一連に「ケータイワンタイムパスワード」と称呼するとは到底思えません。「携帯電話機用使い捨てパスワード」を観念するとも思えません。
本願商標は、カタカナの「ケータイ」とアルファベットの「OTP」を横書きしてなる商標であり、両書体は異なるものの、左右軽重差なくバランス良く配置され、全体を「ケータイオーティーピー」と称呼して決して冗長にならず、語呂もよく、また、観念的にも全体として格別の具体的意味を持たない造語商標であります。それ故、本願商標は、単に商品の品質内容を表示する言葉ではなく、全体として十分に自他商品識別力を有する商標であると考えます。
(b-2)
 ところで、先の意見書でも触れましたが、過去の商標登録例をみますと、第9類の電子計算機(11C01)等を指定し、「OTP」の文字を含む商標として、例えば「スーパーOTPマイコン」なる登録商標の存在が確認できます(第3145361号 、平成8年4月30日登録、ローム株式会社)(第1号証)。これなどは、指定商品との関係において、「スーパー」も「マイコン」も品質内容表示に過ぎないと思われますので、この商標の要部は「OTP」の文字にあるか、或いは全体の組み合わせにあるということで登録されたものであるとみざるを得ません。
 そして、この場合、仮に「OTP」が審査官殿の言われるように品質内容表示であるとすれば、この商標は、個々の単語「スーパー」「OTP」「マイコン」自体には識別力がない商標だが、それらを組み合わせることによって、つまり「スーパーOTPマイコン」と一連一体に把握することによって、全体として識別力を認め登録されたものと考えざるを得ません。本出願人は、「OTP」は品質内容表示ではないと考えますが、一歩譲って、たとえ品質内容表示であったとしても、本願商標「ケータイOTP」は、全体として識別力を有する商標と見るべきであり、この点は上記「スーパーOTPマイコン」と同様であります。この「スーパーOTPマイコン」が登録できて、本願商標の「ケータイOTP」が登録できないとされる謂われは全くありません。
 この点に関して、審査官は拒絶査定書において、“この登録例は、本願商標と同一の事案とは認められず、これを本願商標に採用することは適切ではない”と指摘しております。しかしながら、指定商品との関係において、凡そ、識別力がないと思われる「スーパー」と「マイコン」の文字との間に「OTP」の文字が配置されて登録になった事実がある以上、「OTP」が品質表示であるとするならば、この商標は、全体として識別力を有する商標と判断されて登録されたと見ざるを得ません。そうであるとすれば、本願商標とて、全体として識別力を有する商標であるとして登録することに何ら違和感はないはずです。
 この既登録例の存在が本願商標を審査する上で全く参考にならない訳がありません。同一事案とは認められないといっても似たような事案であり、全く無視する様なことを言ったのでは、何のための商標審査か分かりません。今までの審査実務に束縛されることはないにしても、それなりの理由があって、これらの既登録例が存在しているわけですから、この事実を全く参考にならないとして無視するのはどうかと思います。過去の登録例を全く考慮することがないとしたら、それは商標の審査を自ら否定するようなものであります。
(b-3)
 繰り返しますが、本出願人は、「ケータイ」が「携帯電話機」に通じる語を、また「OTP」が「発行してもらってから1回だけしか利用できないパスワードのこと(使い捨てパスワード)」の意味合いのある英語「One Time Password」の略語を、それぞれ暗示させあるいは間接的に想起させることのある文字であることを否定するものではありません。しかし、「OTP」は「One Time Programable」や「Open Teck Press」など、他の略語を想起することもまた事実であります。
 然るに、「OTP」が「使い捨てパスワード」を暗示することがあったとしても、そのことが直ちに、本願商標全体が「携帯電話機用使い捨てパスワード」という特定の意味を具体的に表す品質表示にすぎない、即ち、品質を普通に用いられる方法で表示する標章にすぎない、ということを意味するものではありません。他の観念を暗示または間接的に想起することもあります。
 なお、商標法第3条第1項第3号の商標審査基準には、“指定商品の「品質」、「効能」、「用途」等を間接的に表示する商標は、本号の規定に該当しないものとする”と明確にうたっています。この審査基準に照らし合わせてみても、今般の審査官の認定には承服しかねます。
  【むすび】
 以上の次第でありますので、本願商標は商品の品質を普通に用いられる方法で表示する商標ではなく、自他商品識別力を有し、充分登録適格性を備えたものと思料します。
 よって、原査定を取り消す、本願の商標は登録をすべきものであるとの審決を求める次第であります。

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(参考)ケース84の「審決」
   商願2006- 29206拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。

 結 論
   原査定を取り消す。
   本願商標は、登録すべきものとする。

 理 由
1 本願商標
 本願商標は、「ケータイ OTP」の文字を書してなり、第9類に属する願書に記載のとおりの商品を指定商品として、平成18年3月31日に登録出願されたものである。
   
2 原査定の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、『携帯電話機』に通じる『ケータイ』の文字と、『発行してもらってから1回だけしか利用できないパスポートのこと(使い捨てパスポートともいう。)』の意味合いのある『One Time Password』の略語を連綴した『OTP』の文字とを、『ケータイ OTP』と書してなるところ、全体として『携帯電話機用使い捨てパスポート』程度の意味合いを理解、認識させるから、これを本願指定商品中、『前記に照応する商品』に使用するときは、単に商品の品質を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるので、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
   
3 当審の判断
 本願商標は、前記1のとおり、「ケータイ OTP」の文字を書してなるところ、構成各文字は、同じ書体、同じ大きさ及び同じ間隔で、外観上もまとまりよく一体的に表された構成よりなるものである。そして、当審において調査するも、本願商標を構成する「ケータイ OTP」の文字が、直ちに原審説示の如くの意味合いを表示するものとして一般に理解され、特定の商品の品質等を直接、かつ、具体的に表示したものとはいい難く、取引者、需要者間において、取引上普通に使用されている事実も見出せない。してみれば、本願商標は、構成文字全体で一種の造語を表したものとみるのが相当であるから、これをその指定商品に使用しても、その商品の品質を表示したものとはいえず、自他商品の識別標識としての機能を十分に発揮し得るものであり、かつ、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもないものとみるのが相当である。
 したがって、本願商標を商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当なものでなく、取消しを免れない。その他、政令で定める期間内に拒絶の理由を発見しない。よって、結論のとおり審決する。

 平成19年 8月30日

                 審判長  特許庁審判官 小林 和男
                      特許庁審判官 津金 純子
                      特許庁審判官 日向野 浩志

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商標登録+α: 拒絶理由通知に対する意見書記載例目次

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