出願書類で商標は何色だったかご存知でしょうか?ベテランか否かを判別する紙出願時代のトリビア

出願書類の紙出願

出願書類で商標は何色だったかご存知でしょうか?これが色商標の話かと思った方はやや早合点です。この問いに即答できる輩は(私見ですが)ベテランの弁理士若しくはベテランの知的財産業界人です。もう少しかみ砕いてみると、工業所有権四法のペーパーレス化が始まる前の紙出願で、出願書類を綴じる側に施されていた色は何でしょうという問いです。工業所有権四法のペーパーレス化は、1990年(平成2年)12月に特許・実用新案分野が先行する形で進められ、3.5インチのフロッピーディスクなども使用した電子出願が受付開始となり、次いで2000年(平成12年)1月に意匠・商標・国際特許出願・審判の電子出願の受付が開始されています。工業所有権の出願書類の色分けは、そのペーパレス化が始まる以前の昔の話です。言い換えれば、現行の実務には、全く役に立たないトリビアということになります。

idea 出願書類の紙出願

工業所有権の出願書類の色分け

実際は目で見た訳ではないけど知識として知っておきたい方のために、先に答えをお教えします。特許願は黒色、実用新案登録願は赤色、意匠登録願は緑色、商標登録願は黄色です。実用新案が赤で意匠が緑とくれば、商標は青になりそうですが、答えは黄色です。比較的に大きな事務所で新人弁理士からの問いに備えたいややベテランの弁理士は、次の電子化以前の出願書類についての知識も在庫させておくことで、備えは万全なものとなります。

特許願
特許願
実用新案登録願
実用新案登録願
意匠登録願
意匠登録願
商標登録願
商標登録願

特許願・実用新案登録願

特許願の願書表面綴込み側に黒色の帯が設けられます。すなわち特許願の作成作業では、予め端部を帯状に黒に印刷した用紙を準備してタイピングにより書類作成して行くことになります。また実用新案登録願の場合には、願書表面の綴込み側に赤色の帯が設けられます。なお、これらの色の帯は、必須ではなく色の帯がなくても書類は受理されておりました。以下は紙出願の時代の特実共通事項ですが、ワープロ導入以前の和文タイプ時代では、カーボン紙で複写された5通が組みとなり、B5版の明細書を構成していました。5通の内訳は、正本、副本、事務所控えが各1通、依頼者控え2通だったように記憶します。願書の添付書類は、副本、譲渡証、委任状(200円の収入印紙を貼付して出願人が消印)、明細書、図面です。図面はジアゾ式複写機(所謂青焼き)を使用していましたので、半透明のトレーシングペーパーにロットリングで図を描く形式で図面が作成されていました。ジアゾ式複写機はB4版を感光紙に複写する構造となっていましたので、半透明B4のトレーシングペーパーは、B5サイズの明細書からB5サイズ分横にはみ出るように綴じられます。図面も用紙の全体に描かれるのではなく、B4のトレーシングペーパーの右半分だけが描画エリアとなります。第○図の表示は通常スタンプで、参照符号の数字はロットリングとステンシルの組み合わせで作成します。複写機が普及しても暫くは青焼きのジアゾ式複写機は使用されていました。特許願の表面には、代理人の職印が押されますが、特許願、実用新案登録願の文字の周囲には、出願料の納付のための特許印紙(特許の場合9,500円、実用新案登録の場合7,100円(昭和61年当時))を貼ります。また、明細書や図面の見開き部分には割印を押します。同じ日に、複数の特許出願をする場合には、特許願1、特許願2、・・・のように番号を付けます。後日願番がはがきで通知されたときに区別するためです。出願自体は、特許庁の窓口に持参するか、郵便局から郵送します。郵送の場合、先願主義でしたので夜12時よりも前の東京中央郵便局には、同業者の郵便物が集結する現象もあったように思います。窓口差し出しの場合、受付の方が印紙や形式的なチェックをして受領印用のノートに受領印を押してもらいます。この場合も願番は後日送付されていました。これも特実共通ですが、和文タイプを使用しない場合では手書きでも特許や実用新案登録の出願が可能で、弁理士のない本人出願の場合は、当時は手書きの出願が散見されていました。また、図面が青焼きというレベルでは、それより遡ると複写機もない頃の話になり、例えば資料などは切り抜いて提出できればよく、そうでない場合には手書きで書き写し、書き写したページの左側に白紙を1cmぐらい重なるように貼り合わせ、白紙の中央には「右正写しました。」のスタンプを押し、職印を押すこともしていたと思います。

blue-print

意匠登録願

意匠登録願の場合は、願書表面綴込み側に緑色の帯が設けられます。意匠出願に添付する図面は、トレーシングペーパーに特許と同様なロットリングで線図を記載したものの場合もありますが、写真で6面図を構成する場合もあり、特に写真も6面図の代わりに使用されるとの認識から、写真間の寸法を合わせることに集中するような作業でしたし、意匠図面を作成する業者もいた時代でした。特許願、実用新案登録願と同様に意匠登録願の文字の周囲には、出願料の納付のための特許印紙(意匠登録願では8,400円、類似意匠登録願では4,200円(昭和61年当時))を貼ります。

商標登録願

商標登録願の場合は、願書表面綴込み側に黄色の帯が設けられます。当時の出願書類で今と大きく異なるのは、商標見本(正式には「商標登録を受けようとする商標を表示した書面」)と呼ばれる標章を印刷した8cm×8cm程度の紙を願書に貼り付けていたところでしょう。商標見本はだいたい印刷屋さんに外注して作成してもらうようになっていて、コピー紙よりは少し厚めの表面にやや光沢のあるカレンダー紙を使用していました。印刷を外注で頼んでいたため、カラーの場合は商標見本代が高くなったと思います。願書の表紙には、商標見本を1枚貼り付けて割印を押します。貼り付け方は願書には全面糊付けをしてしっかりと貼り付けます。願書の2枚目以降の白紙部分には同じ4つの商標見本(正式には「商標登録を受けようとする商標を表示した書面の副本」)を上部の1cm程度を糊付けする感じで貼り付けます。これらの余分に特許庁に提出された商標見本は、多分願書の2枚目以降の白紙から取り外されて審査や閲覧に使用されていたと思います。三年坂庁舎当時の閲覧は、基本的に手めくりで進められていて、庁舎入り口近くの閲覧室では多くの方がぶ厚いファイルの書類を手でめくりながら商標調査をしておりました。なお、事務所控えや依頼者控えにも同様な商標見本を貼り付けますので、1出願当たり全部で10枚程度の商標見本の印刷部数はありました。特許願、実用新案登録願、意匠登録願と同様に商標登録願の文字の周囲には、出願料の納付のための特許印紙を貼ります。昭和61年当時では商標登録の出願料は1件14,000円で、現在は廃止されている連合商標登録願はその倍の1件28,000円でした。また、願書の添付書類は、4つの商標見本、委任状であったと記憶しています。商標は選択物と考えられていたので譲渡証はありません。商標の主な改正の1つとして、電子出願制度導入が平成10年にありましたが、電子出願制度の前の平成10年以前は紙出願でした。

特許局

訂正印の利用方法 -特許事務所での便利な書面の訂正方法 ㊞

商標登録出願書類の書き方ガイド(pdf)

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