仲裁法 vol.1

仲裁法(平成十五年八月一日法律第百三十八号)

   第一章 総則

(趣旨)
第一条  仲裁地が日本国内にある仲裁手続及び仲裁手続に関して裁判所が行う手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
(定義)
第二条  この法律において「仲裁合意」とは、既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない。)に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人以上の仲裁人にゆだね、かつ、その判断(以下「仲裁判断」という。)に服する旨の合意をいう。
2  この法律において「仲裁廷」とは、仲裁合意に基づき、その対象となる民事上の紛争について審理し、仲裁判断を行う一人の仲裁人又は二人以上の仲裁人の合議体をいう。
3  この法律において「主張書面」とは、仲裁手続において当事者が作成して仲裁廷に提出する書面であって、当該当事者の主張が記載されているものをいう。
(適用範囲)
第三条  次章から第七章まで、第九章及び第十章の規定は、次項及び第八条に定めるものを除き、仲裁地が日本国内にある場合について適用する。
2  第十四条第一項及び第十五条の規定は、仲裁地が日本国内にある場合、仲裁地が日本国外にある場合及び仲裁地が定まっていない場合に適用する。
3  第八章の規定は、仲裁地が日本国内にある場合及び仲裁地が日本国外にある場合に適用する。
(裁判所の関与)
第四条  仲裁手続に関しては、裁判所は、この法律に規定する場合に限り、その権限を行使することができる。
(裁判所の管轄)
第五条  この法律の規定により裁判所が行う手続に係る事件は、次に掲げる裁判所の管轄に専属する。
一  当事者が合意により定めた地方裁判所
二  仲裁地(一の地方裁判所の管轄区域のみに属する地域を仲裁地として定めた場合に限る。)を管轄する地方裁判所
三  当該事件の被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所
2  この法律の規定により二以上の裁判所が管轄権を有するときは、先に申立てがあった裁判所が管轄する。
3  裁判所は、この法律の規定により裁判所が行う手続に係る事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
(任意的口頭弁論)
第六条  この法律の規定により裁判所が行う手続に係る裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
(裁判に対する不服申立て)
第七条  この法律の規定により裁判所が行う手続に係る裁判につき利害関係を有する者は、この法律に特別の定めがある場合に限り、当該裁判に対し、その告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
(仲裁地が定まっていない場合における裁判所の関与)
第八条  裁判所に対する次の各号に掲げる申立ては、仲裁地が定まっていない場合であって、仲裁地が日本国内となる可能性があり、かつ、申立人又は被申立人の普通裁判籍(最後の住所により定まるものを除く。)の所在地が日本国内にあるときも、することができる。この場合においては、当該各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める規定を適用する。
一  第十六条第三項の申立て 同条
二  第十七条第二項から第五項までの申立て 同条
三  第十九条第四項の申立て 第十八条及び第十九条
四  第二十条の申立て 同条
2  前項の場合における同項各号に掲げる申立てに係る事件は、第五条第一項の規定にかかわらず、前項に規定する普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
(裁判所が行う手続に係る事件の記録の閲覧等)
第九条  この法律の規定により裁判所が行う手続について利害関係を有する者は、裁判所書記官に対し、次に掲げる事項を請求することができる。
一  事件の記録の閲覧又は謄写
二  事件の記録中の電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録の複製
三  事件の記録の正本、謄本又は抄本の交付
四  事件に関する事項の証明書の交付
(裁判所が行う手続についての民事訴訟法 の準用)
第十条  この法律の規定により裁判所が行う手続に関しては、特別の定めがある場合を除き、民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)の規定を準用する。
(最高裁判所規則)
第十一条  この法律に定めるもののほか、この法律の規定により裁判所が行う手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
(書面によってする通知)
第十二条  仲裁手続における通知を書面によってするときは、当事者間に別段の合意がない限り、名あて人が直接当該書面を受領した時又は名あて人の住所、常居所、営業所、事務所若しくは配達場所(名あて人が発信人からの書面の配達を受けるべき場所として指定した場所をいう。以下この条において同じ。)に当該書面が配達された時に、通知がされたものとする。
2  裁判所は、仲裁手続における書面によってする通知について、当該書面を名あて人の住所、常居所、営業所、事務所又は配達場所に配達することが可能であるが、発信人が当該配達の事実を証明する資料を得ることが困難である場合において、必要があると認めるときは、発信人の申立てにより、裁判所が当該書面の送達をする旨の決定をすることができる。この場合における送達については、民事訴訟法第百四条 及び第百十条 から第百十三条 までの規定は適用しない。
3  前項の規定は、当事者間に同項の送達を行わない旨の合意がある場合には、適用しない。
4  第二項の申立てに係る事件は、第五条第一項の規定にかかわらず、同項第一号及び第二号に掲げる裁判所並びに名あて人の住所、常居所、営業所、事務所又は配達場所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
5  仲裁手続における通知を書面によってする場合において、名あて人の住所、常居所、営業所、事務所及び配達場所のすべてが相当の調査をしても分からないときは、当事者間に別段の合意がない限り、発信人は、名あて人の最後の住所、常居所、営業所、事務所又は配達場所にあてて当該書面を書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法により発送すれば足りる。この場合においては、当該書面が通常到達すべきであった時に通知がされたものとする。
6  第一項及び前項の規定は、この法律の規定により裁判所が行う手続において通知を行う場合については、適用しない。

   第二章 仲裁合意

(仲裁合意の効力等)
第十三条  仲裁合意は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者が和解をすることができる民事上の紛争(離婚又は離縁の紛争を除く。)を対象とする場合に限り、その効力を有する。
2  仲裁合意は、当事者の全部が署名した文書、当事者が交換した書簡又は電報(ファクシミリ装置その他の隔地者間の通信手段で文字による通信内容の記録が受信者に提供されるものを用いて送信されたものを含む。)その他の書面によってしなければならない。
3  書面によってされた契約において、仲裁合意を内容とする条項が記載された文書が当該契約の一部を構成するものとして引用されているときは、その仲裁合意は、書面によってされたものとする。
4  仲裁合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その仲裁合意は、書面によってされたものとする。
5  仲裁手続において、一方の当事者が提出した主張書面に仲裁合意の内容の記載があり、これに対して他方の当事者が提出した主張書面にこれを争う旨の記載がないときは、その仲裁合意は、書面によってされたものとみなす。
6  仲裁合意を含む一の契約において、仲裁合意以外の契約条項が無効、取消しその他の事由により効力を有しないものとされる場合においても、仲裁合意は、当然には、その効力を妨げられない。
(仲裁合意と本案訴訟)
第十四条  仲裁合意の対象となる民事上の紛争について訴えが提起されたときは、受訴裁判所は、被告の申立てにより、訴えを却下しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一  仲裁合意が無効、取消しその他の事由により効力を有しないとき。
二  仲裁合意に基づく仲裁手続を行うことができないとき。
三  当該申立てが、本案について、被告が弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後にされたものであるとき。
2  仲裁廷は、前項の訴えに係る訴訟が裁判所に係属する間においても、仲裁手続を開始し、又は続行し、かつ、仲裁判断をすることができる。
(仲裁合意と裁判所の保全処分)
第十五条  仲裁合意は、その当事者が、当該仲裁合意の対象となる民事上の紛争に関して、仲裁手続の開始前又は進行中に、裁判所に対して保全処分の申立てをすること、及びその申立てを受けた裁判所が保全処分を命ずることを妨げない。

   第三章 仲裁人

(仲裁人の数)
第十六条  仲裁人の数は、当事者が合意により定めるところによる。
2  当事者の数が二人である場合において、前項の合意がないときは、仲裁人の数は、三人とする。
3  当事者の数が三人以上である場合において、第一項の合意がないときは、当事者の申立てにより、裁判所が仲裁人の数を定める。
(仲裁人の選任)
第十七条  仲裁人の選任手続は、当事者が合意により定めるところによる。ただし、第五項又は第六項に規定するものについては、この限りでない。
2  当事者の数が二人であり、仲裁人の数が三人である場合において、前項の合意がないときは、当事者がそれぞれ一人の仲裁人を、当事者により選任された二人の仲裁人がその余の仲裁人を、選任する。この場合において、一方の当事者が仲裁人を選任した他方の当事者から仲裁人を選任すべき旨の催告を受けた日から三十日以内にその選任をしないときは当該当事者の申立てにより、当事者により選任された二人の仲裁人がその選任後三十日以内にその余の仲裁人を選任しないときは一方の当事者の申立てにより、裁判所が仲裁人を選任する。
3  当事者の数が二人であり、仲裁人の数が一人である場合において、第一項の合意がなく、かつ、当事者間に仲裁人の選任についての合意が成立しないときは、一方の当事者の申立てにより、裁判所が仲裁人を選任する。
4  当事者の数が三人以上である場合において、第一項の合意がないときは、当事者の申立てにより、裁判所が仲裁人を選任する。
5  第一項の合意により仲裁人の選任手続が定められた場合であっても、当該選任手続において定められた行為がされないことその他の理由によって当該選任手続による仲裁人の選任ができなくなったときは、一方の当事者は、裁判所に対し、仲裁人の選任の申立てをすることができる。
6  裁判所は、第二項から前項までの規定による仲裁人の選任に当たっては、次に掲げる事項に配慮しなければならない。
一  当事者の合意により定められた仲裁人の要件
二  選任される者の公正性及び独立性
三  仲裁人の数を一人とする場合又は当事者により選任された二人の仲裁人が選任すべき仲裁人を選任すべき場合にあっては、当事者双方の国籍と異なる国籍を有する者を選任することが適当かどうか。
(忌避の原因等)
第十八条  当事者は、仲裁人に次に掲げる事由があるときは、当該仲裁人を忌避することができる。
一  当事者の合意により定められた仲裁人の要件を具備しないとき。
二  仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき。
2  仲裁人を選任し、又は当該仲裁人の選任について推薦その他これに類する関与をした当事者は、当該選任後に知った事由を忌避の原因とする場合に限り、当該仲裁人を忌避することができる。
3  仲裁人への就任の依頼を受けてその交渉に応じようとする者は、当該依頼をした者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実の全部を開示しなければならない。
4  仲裁人は、仲裁手続の進行中、当事者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部を遅滞なく開示しなければならない。
(忌避の手続)
第十九条  仲裁人の忌避の手続は、当事者が合意により定めるところによる。ただし、第四項に規定するものについては、この限りでない。
2  前項の合意がない場合において、仲裁人の忌避についての決定は、当事者の申立てにより、仲裁廷が行う。
3  前項の申立てをしようとする当事者は、仲裁廷が構成されたことを知った日又は前条第一項各号に掲げる事由のいずれかがあることを知った日のいずれか遅い日から十五日以内に、忌避の原因を記載した申立書を仲裁廷に提出しなければならない。この場合において、仲裁廷は、当該仲裁人に忌避の原因があると認めるときは、忌避を理由があるとする決定をしなければならない。
4  前三項に規定する忌避の手続において仲裁人の忌避を理由がないとする決定がされた場合には、その忌避をした当事者は、当該決定の通知を受けた日から三十日以内に、裁判所に対し、当該仲裁人の忌避の申立てをすることができる。この場合において、裁判所は、当該仲裁人に忌避の原因があると認めるときは、忌避を理由があるとする決定をしなければならない。
5  仲裁廷は、前項の忌避の申立てに係る事件が裁判所に係属する間においても、仲裁手続を開始し、又は続行し、かつ、仲裁判断をすることができる。
(解任の申立て)
第二十条  当事者は、次に掲げる事由があるときは、裁判所に対し、仲裁人の解任の申立てをすることができる。この場合において、裁判所は、当該仲裁人にその申立てに係る事由があると認めるときは、当該仲裁人を解任する決定をしなければならない。
一  仲裁人が法律上又は事実上その任務を遂行することができなくなったとき。
二  前号の場合を除くほか、仲裁人がその任務の遂行を不当に遅滞させたとき。
(仲裁人の任務の終了)
第二十一条  仲裁人の任務は、次に掲げる事由により、終了する。
一  仲裁人の死亡
二  仲裁人の辞任
三  当事者の合意による仲裁人の解任
四  第十九条第一項から第四項までに規定する忌避の手続においてされた忌避を理由があるとする決定
五  前条の規定による仲裁人の解任の決定
2  第十九条第一項から第四項までに規定する忌避の手続又は前条の規定による解任の手続の進行中に、仲裁人が辞任し、又は当事者の合意により仲裁人が解任されたという事実のみから、当該仲裁人について第十八条第一項各号又は前条各号に掲げる事由があるものと推定してはならない。
(後任の仲裁人の選任方法)
第二十二条  前条第一項各号に掲げる事由により仲裁人の任務が終了した場合における後任の仲裁人の選任の方法は、当事者間に別段の合意がない限り、任務が終了した仲裁人の選任に適用された選任の方法による。

   第四章 仲裁廷の特別の権限

(自己の仲裁権限の有無についての判断)
第二十三条  仲裁廷は、仲裁合意の存否又は効力に関する主張についての判断その他自己の仲裁権限(仲裁手続における審理及び仲裁判断を行う権限をいう。以下この条において同じ。)の有無についての判断を示すことができる。
2  仲裁手続において、仲裁廷が仲裁権限を有しない旨の主張は、その原因となる事由が仲裁手続の進行中に生じた場合にあってはその後速やかに、その他の場合にあっては本案についての最初の主張書面の提出の時(口頭審理において口頭で最初に本案についての主張をする時を含む。)までに、しなければならない。ただし、仲裁権限を有しない旨の主張の遅延について正当な理由があると仲裁廷が認めるときは、この限りでない。
3  当事者は、仲裁人を選任し、又は仲裁人の選任について推薦その他これに類する関与をした場合であっても、前項の主張をすることができる。
4  仲裁廷は、適法な第二項の主張があったときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める決定又は仲裁判断により、当該主張に対する判断を示さなければならない。
一  自己が仲裁権限を有する旨の判断を示す場合 仲裁判断前の独立の決定又は仲裁判断
二  自己が仲裁権限を有しない旨の判断を示す場合 仲裁手続の終了決定
5  仲裁廷が仲裁判断前の独立の決定において自己が仲裁権限を有する旨の判断を示したときは、当事者は、当該決定の通知を受けた日から三十日以内に、裁判所に対し、当該仲裁廷が仲裁権限を有するかどうかについての判断を求める申立てをすることができる。この場合において、当該申立てに係る事件が裁判所に係属する場合であっても、当該仲裁廷は、仲裁手続を続行し、かつ、仲裁判断をすることができる。
(暫定措置又は保全措置)
第二十四条  仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、その一方の申立てにより、いずれの当事者に対しても、紛争の対象について仲裁廷が必要と認める暫定措置又は保全措置を講ずることを命ずることができる。
2  仲裁廷は、いずれの当事者に対しても、前項の暫定措置又は保全措置を講ずるについて、相当な担保を提供すべきことを命ずることができる。

   第五章 仲裁手続の開始及び仲裁手続における審理

(当事者の平等待遇)
第二十五条  仲裁手続においては、当事者は、平等に取り扱われなければならない。
2  仲裁手続においては、当事者は、事案について説明する十分な機会が与えられなければならない。
(仲裁手続の準則)
第二十六条  仲裁廷が従うべき仲裁手続の準則は、当事者が合意により定めるところによる。ただし、この法律の公の秩序に関する規定に反してはならない。
2  前項の合意がないときは、仲裁廷は、この法律の規定に反しない限り、適当と認める方法によって仲裁手続を実施することができる。
3  第一項の合意がない場合における仲裁廷の権限には、証拠に関し、証拠としての許容性、取調べの必要性及びその証明力についての判断をする権限が含まれる。
(異議権の放棄)
第二十七条  仲裁手続においては、当事者は、この法律の規定又は当事者間の合意により定められた仲裁手続の準則(いずれも公の秩序に関しないものに限る。)が遵守されていないことを知りながら、遅滞なく(異議を述べるべき期限についての定めがある場合にあっては、当該期限までに)異議を述べないときは、当事者間に別段の合意がない限り、異議を述べる権利を放棄したものとみなす。
(仲裁地)
第二十八条  仲裁地は、当事者が合意により定めるところによる。
2  前項の合意がないときは、仲裁廷は、当事者の利便その他の紛争に関する事情を考慮して、仲裁地を定める。
3  仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、前二項の規定による仲裁地にかかわらず、適当と認めるいかなる場所においても、次に掲げる手続を行うことができる。
一  合議体である仲裁廷の評議
二  当事者、鑑定人又は第三者の陳述の聴取
三  物又は文書の見分
(仲裁手続の開始及び時効の中断)
第二十九条  仲裁手続は、当事者間に別段の合意がない限り、特定の民事上の紛争について、一方の当事者が他方の当事者に対し、これを仲裁手続に付する旨の通知をした日に開始する。
2  仲裁手続における請求は、時効中断の効力を生ずる。ただし、当該仲裁手続が仲裁判断によらずに終了したときは、この限りでない。
(言語)
第三十条  仲裁手続において使用する言語及びその言語を使用して行うべき手続は、当事者が合意により定めるところによる。
2  前項の合意がないときは、仲裁廷が、仲裁手続において使用する言語及びその言語を使用して行うべき手続を定める。
3  第一項の合意又は前項の決定において、定められた言語を使用して行うべき手続についての定めがないときは、その言語を使用して行うべき手続は、次に掲げるものとする。
一  口頭による手続
二  当事者が行う書面による陳述又は通知
三  仲裁廷が行う書面による決定(仲裁判断を含む。)又は通知
4  仲裁廷は、すべての証拠書類について、第一項の合意又は第二項の決定により定められた言語(翻訳文について使用すべき言語の定めがある場合にあっては、当該言語)による翻訳文を添付することを命ずることができる。
(当事者の陳述の時期的制限)
第三十一条  仲裁申立人(仲裁手続において、これを開始させるための行為をした当事者をいう。以下同じ。)は、仲裁廷が定めた期間内に、申立ての趣旨、申立ての根拠となる事実及び紛争の要点を陳述しなければならない。この場合において、仲裁申立人は、取り調べる必要があると思料するすべての証拠書類を提出し、又は提出予定の証拠書類その他の証拠を引用することができる。
2  仲裁被申立人(仲裁申立人以外の仲裁手続の当事者をいう。以下同じ。)は、仲裁廷が定めた期間内に、前項の規定により陳述された事項についての自己の主張を陳述しなければならない。この場合においては、同項後段の規定を準用する。
3  すべての当事者は、仲裁手続の進行中において、自己の陳述の変更又は追加をすることができる。ただし、当該変更又は追加が時機に後れてされたものであるときは、仲裁廷は、これを許さないことができる。
4  前三項の規定は、当事者間に別段の合意がある場合には、適用しない。
(審理の方法)
第三十二条  仲裁廷は、当事者に証拠の提出又は意見の陳述をさせるため、口頭審理を実施することができる。ただし、一方の当事者が第三十四条第三項の求めその他の口頭審理の実施の申立てをしたときは、仲裁手続における適切な時期に、当該口頭審理を実施しなければならない。
2  前項の規定は、当事者間に別段の合意がある場合には、適用しない。
3  仲裁廷は、意見の聴取又は物若しくは文書の見分を行うために口頭審理を行うときは、当該口頭審理の期日までに相当な期間をおいて、当事者に対し、当該口頭審理の日時及び場所を通知しなければならない。
4  当事者は、主張書面、証拠書類その他の記録を仲裁廷に提供したときは、他の当事者がその内容を知ることができるようにする措置を執らなければならない。
5  仲裁廷は、仲裁判断その他の仲裁廷の決定の基礎となるべき鑑定人の報告その他の証拠資料の内容を、すべての当事者が知ることができるようにする措置を執らなければならない。
(不熱心な当事者がいる場合の取扱い)
第三十三条  仲裁廷は、仲裁申立人が第三十一条第一項の規定に違反したときは、仲裁手続の終了決定をしなければならない。ただし、違反したことについて正当な理由がある場合は、この限りでない。
2  仲裁廷は、仲裁被申立人が第三十一条第二項の規定に違反した場合であっても、仲裁被申立人が仲裁申立人の主張を認めたものとして取り扱うことなく、仲裁手続を続行しなければならない。
3  仲裁廷は、一方の当事者が口頭審理の期日に出頭せず、又は証拠書類を提出しないときは、その時までに収集された証拠に基づいて、仲裁判断をすることができる。ただし、当該当事者が口頭審理に出頭せず、又は証拠書類を提出しないことについて正当な理由がある場合は、この限りでない。
4  前三項の規定は、当事者間に別段の合意がある場合には、適用しない。
(仲裁廷による鑑定人の選任等)
第三十四条  仲裁廷は、一人又は二人以上の鑑定人を選任し、必要な事項について鑑定をさせ、文書又は口頭によりその結果の報告をさせることができる。
2  前項の場合において、仲裁廷は、当事者に対し、次に掲げる行為をすることを求めることができる。
一  鑑定に必要な情報を鑑定人に提供すること。
二  鑑定に必要な文書その他の物を、鑑定人に提出し、又は鑑定人が見分をすることができるようにすること。
3  当事者の求めがあるとき、又は仲裁廷が必要と認めるときは、鑑定人は、第一項の規定による報告をした後、口頭審理の期日に出頭しなければならない。
4  当事者は、前項の口頭審理の期日において、次に掲げる行為をすることができる。
一  鑑定人に質問をすること。
二  自己が依頼した専門的知識を有する者に当該鑑定に係る事項について陳述をさせること。
5  前各項の規定は、当事者間に別段の合意がある場合には、適用しない。
(裁判所により実施する証拠調べ)
第三十五条  仲裁廷又は当事者は、民事訴訟法 の規定による調査の嘱託、証人尋問、鑑定、書証(当事者が文書を提出してするものを除く。)及び検証(当事者が検証の目的を提示してするものを除く。)であって仲裁廷が必要と認めるものにつき、裁判所に対し、その実施を求める申立てをすることができる。ただし、当事者間にこれらの全部又は一部についてその実施を求める申立てをしない旨の合意がある場合は、この限りでない。
2  当事者が前項の申立てをするには、仲裁廷の同意を得なければならない。
3  第一項の申立てに係る事件は、第五条第一項の規定にかかわらず、次に掲げる裁判所の管轄に専属する。
一  第五条第一項第二号に掲げる裁判所
二  尋問を受けるべき者若しくは文書を所持する者の住所若しくは居所又は検証の目的の所在地を管轄する地方裁判所
三  申立人又は被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(前二号に掲げる裁判所がない場合に限る。)
4  第一項の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。
5  第一項の申立てにより裁判所が当該証拠調べを実施するに当たり、仲裁人は、文書を閲読し、検証の目的を検証し、又は裁判長の許可を得て証人若しくは鑑定人(民事訴訟法第二百十三条 に規定する鑑定人をいう。)に対して質問をすることができる。
6  裁判所書記官は、第一項の申立てにより裁判所が実施する証拠調べについて、調書を作成しなければならない。

仲裁法 vol.2へ続く

   

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