マドリッド制度の代替(Replacement)手続 議定書4条の2

マドリッド制度の代替(Replacement)

マドリッド制度の代替とは、各指定締約国の国内商標を国際登録に一本化する仕組みであって、各指定締約国の国内登録の利益を国際登録が引き継ぎ、国内登録を国際登録が置き換えるように機能する手続です。[議定書4条の2,規則21]保有者は、国内または地域登録の理由で取得した権利の日付の恩恵を受けながら、各指定締約国の国内商標を失効させることを決定でき、国内商標登録を失効させて権利を国際登録に統合させることができます。国際事務局のサイト(Replies to the Questionnaire on Replacement、2007年)によれば、代替について既に立法済みであるとした国は、アンティグア・バーブーダ、オーストラリア、バーレーン、フィンランド、アイルランド、日本、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国になり、これは代替ができる国とできない国が混在していることを意味しています。

マドリッド制度の代替
Algarve, ‎Faro, Portugal

代替のための条件

或る指定締約国で既に国内商標登録が存在していて、そこに重複する国際登録の保護の拡張がなされた場合に、代替の成立要件が満たされることになります。具体的には、指定締約国の国内商標登録と国際登録の間で、1)商標が同一、2)名義人が同一、3)国際登録の保護が国内登録後にその指定締約国に拡張されている(国内商標登録と国際登録の重複登録状態が発生)、4)国際登録の指定商品・指定役務は国内商標登録の指定商品・指定役務と少なくとも一部で重複(2021.11改正前は国内登録の全部の指定商品役務が一致でしたが、改正後は部分的な重複で代替が可能)の条件が満たされる場合となります。この条件が満たされれば自動的に代替の効果が発生します。1つの国際登録が2つ以上の代替となることもあります。

代替申請手続の流れ

代替手続の流れ
代替は自動的に効果を持つため、権利者が代替の申請することは必要ではないのですが、確認のために代替の申請をすることができます。即ち、或る指定締約国で代替の要件が満たされたところで、商標権者はその指定締約国の政府機関に代替の申請をします。この代替の申請により実際に代替が認定されているのかどうかを確認することができます。

代替の効果

代替の効果は自動的に発生します。また国際登録に代替された国内登録自体が代替により抹消されるわけではありません。さらに先行する国内登録で認められた優先権主張などが損なわれることもなく国際登録はその日付けの利益を享受します。国内登録自体が代替により抹消される訳ではないので、先行の国内登録の更新も可能です。特に国際登録の従属性により、国際登録から5年を経過する前は国際登録が取り消される可能性があることも考慮すると、基礎出願または基礎登録に従属する期間内に先行の国内登録がその存続期間満了を迎える場合には、名義人は当該国内登録の更新を行っておくことが賢明とされています。

国際事務局での取扱

国際事務局では、指定締約国の政府機関からの連絡に応じて、通知が所定の要件に準拠している場合に国際事務局は代替の詳細を国際登録簿に記録します。国際登録簿に記録された代替の記載は、マドリッドモニターで閲覧することが可能です。マドリッドモニターで検索する場合、ADVANCED SEARCH(高度な検索)のTransactionの項目に”FBN”と入力すると、代替の記録が済んだ国際登録を一覧で表示させることもできます。

1491915- KIRIN
1491915- KIRIN with Replacement of national registration by an international registration : 2021/29 Gaz, 05.08.2021, AU

以下は代替がどのように行われるかを示す例です。(WIPOのサイトより)
1)1999年1月1日付のオーストラリアの国内商標登録があるとします。
2)2021年1月1日、オーストラリアを対象とする国際出願を申請します。これに問題がなければ、オーストラリアの知財庁から保護が付与された場合、2021年1月1日以降、国際登録に基づきオーストラリアでの保護が付与されます。
3)国際登録のオーストラリア指定が、オーストラリアの国内商標と同一で、同一の商品・役務を対象としている場合、それはオーストラリア国内登録に自動的に代替されます。国際登録におけるオーストラリアの指定には、国内商標に基づいて付与された権利の日付(この場合、1999年1月1日)が使用されます。

特許庁(JPO)での取扱

国際登録簿に代替の記録をするためには、所有者は特許庁に代替申請書を提出する必要があります。所有者が日本国籍または在住の場合には、直接日本の特許庁に申請書を提出できますが、外国人の場合には現地代理人により代替申請書を提出する必要があります。代替申請書の様式は決められていません。また、代替申請は無料で行うことができます。国内登録の商標見本は完全に国際登録の商標見本と一致している必要があります。

代替の手続がなされた商標公報には、次の文字が追加されます(審査便覧45.71)。A320の例
【特例国際商標権(商標法第68条の10適用)】
(646)【重複国内商標権に係る登録番号】 商標登録第3193493号(T3193493)

米国特許商標庁(USPTO)での取扱 TMEP §1904.12

米国の国内登録およびその後に発行された米国への国際登録の保護の拡張が次の場合:(1)同じ人が所有し、(2)同じマークを対象とし、(3)同じ商品/役務/団体会員組織を指定する場合、保護の延長は、発行された時点で米国の国内登録に発生したものと同じ権利を有するものとなります。法律上、代替は法律の運用により自動的に行われます。ただし、米国特許商標庁は、保護の登録された拡張の商標権者が要求した場合にのみ、代替を記録します(それに応じて国際事務局に通知します)。米国の国内登録を登録された保護の延長に代替する場合には要求には、以下を含める必要があります。
(1)米国への保護の延長のシリアル番号または登録番号(すなわち、§66(a)の申請または登録された保護の延長)
(2)代替された米国登録の登録番号
(3)37CFR§7.6で要求される料金(For filing a notice of replacement under § 7.28 through TEAS, per class – $100.00)

商標権者は、保護問題の延長の要求に基づく登録まで、米国国内登録の交換を通知する要求を提出することはできません。保護の延長の要求に基づく登録日に元の米国国内登録が有効である場合、米国特許商標庁は代替の注記の要求を受付ますが、代替の注記の要求は米国国内登録が取り消されるか期限切れになった後では提出できなくなります。元の米国国内登録が宣誓供述書を提出するための猶予期間中であれば、登録された保護延長の問題の時点​​で、必要な宣誓供述書が提出されて受け入れられない限り、米国特許商標庁は、代替については通知しません。「代替(replacement)」は、米国の国内登録を無効にするものではありません。米国国内登録は、商標権者が商標法の§9に基づいて登録を更新し、商標の§8に基づいて必要な使用宣誓供述書または免除可能な不使用を提出する限り、そのような登録に付随するすべての権利とともに登録に残ります。代替された米国国内登録を維持するかどうかを決定するのは商標権者次第となります。

英国知的財産庁(UKIPO)での取扱(w/ Brexit関連)

1)代替の手続について
商標権者が英国知的財産庁に対して、所定の書面にて代替請求することにより手続が行われ、英国の登録簿にその旨記載されます。また国際事務局に対する通知は英国知的財産庁により行われ、代替請求の手続は無料です。
2)代替の手続登録後も、国際登録商標と国内登録商標とは共存します。ただし、商標権者は国内登録商標の更新時に、失効の選択をすることができます。
3) Brexit関連 英国の欧州連合離脱後においては、欧州連合商標出願または登録が国際登録の場合であっても、新たに国際登録に英国が指定されるのではなく、英国の国内出願、登録となるため、国際登録の更新とは別に英国において国内の商標権の更新手続を行う必要があります。英国国内の登録を国際登録により管理を行いたい場合には、国際登録について英国を指定国とする事後指定を行えば良く、その際に、マドリッド協定議定書に基づき、国内登録による国内登録の代替(Replacement)から、権利の発生日を欧州連合商標登録の権利発生日と同日にすることができますが、自動的に付与された英国国内登録とは異なり、事後指定には国際事務局への個別手数料及び代理人費用等が生じることも有り、事後指定後、英国知的財産庁による審査を経て、異議申立のための公告といった手続を踏む必要があります。

なお、欧州連合商標に係る商標権と同等の英国の商標権は、以下のような規則により、英国での登録番号が付与されます。
・欧州連合商標 登録番号:12345678 → UK00912345678 (頭に UK009 が追加される)
・国際登録番号 :12345678 → UK00812345678 (頭に UK008 が追加される)

オーストラリア(IP Australia)での取扱

オーストラリアを指定国とする国際登録出願の所有者は、同じ商標の既存のオーストラリア商標登録をすでに所有しており、国際登録出願で主張されている商品および/またはサービスの一部またはすべてを含んでいる可能性があります。国内登録のすべて又は一部の商品および/またはサービスが国際登録の対象であり、国際登録の保護がオーストラリアまで拡張されている場合、所有者は保護された国際商標が既存の登録を置き換えることを要求できます。所有者は、保護された国際商標が、関連する商品および/またはサービスの国内登録からより早い優先日を与えられることによって利益を得ることになります。

オーストラリアを指定国とする国際登録出願のの審査中に、審査官は、同じ所有者であり、IRDAで指定された商品および/またはサービスを含む同一の商標の国内登録を見つけることができます。代替は、国内商標が登録されており、オーストラリアを指定国とする国際登録出願がオーストラリアで保護の拡張がされている場合にのみ行うことができます。国内登録が国際登録に代替されると、保護された国際登録は、元々国内登録の対象となった商品に関して、以前の登録の優先日を保持します。所有者から代替が要求され、発生した後は、保護された国際商標の優先日を保持するために、所有者は国内登録を更新する必要はありません。ただし、国際登録が基本出願または登録の運命に依存する5年以内である場合、国内登録を更新することは、国際登録の所有者の利益になります。

代替が行われると、保護された国際商標に次の承認が付けられます。
By virtue of Article 4bis of the Madrid Protocol the priority date based on national registration number(s) <123456> applies to the following goods/services(***).(マドリッド議定書の第4条の2により、国内登録番号< 123456 >に基づく優先日<日月年>が以下の商品/サービス(***)に適用されます。)

また代替が行われると、次の承認が国内登録に付与されます。
Article 4bis of the Madrid Protocol applies; this registration may be replaced by に代替できます。)

シンガポール知的財産局(IPOS)での取扱

代替の事実を記録したい国際登録の保有者は、フォームMP2に記入することで登録できます。代替申請が成功した場合、国際登録は、「マドリッド議定書に基づく代替申請(Replacement Application under Madrid Protocol)」の表示の下に、代替される国内商標番号、クラス番号、保護日を反映し、代替される商品および/または役務、および優先権主張の詳細(もしあれば)が記載されます。
所有者の求めに応じてシンガポール知的財産局が登録簿の代替を記録した場合、シンガポール知的財産局は求めに応じて国際事務局にも通知します。このような通知には、国際登録番号、出願日、商標番号、優先日(もしあれば)および国内登録の商品および/または役務が含まれ、これらを国際事務局は国際登録簿に記録します。記録がされたことは、所有者にも通知されます。また、この情報はWIPOガゼットにも掲載されます。

Replies to the Questionnaire on Replacement
国際登録出願(マドリッド制度・マドプロ)の全体像を説明

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