商標関連訴訟の訴額と申立手数料 (印紙代)

商標関連訴訟の訴額と申立手数料 (印紙代)

訴額とは原告が被告に対し主張する一定の権利ないし法律関係(訴訟物)を金銭評価した金額であり、換言すれば原告がその訴訟で全部勝訴したときに得られる経済的利益の額を言います。訴訟を提起するためには、国に申立手数料を訴状に貼付したり或いは電子的に納付しますが、その申立手数料の額は訴額に応じて算出されます。

商標関連訴訟の訴額と申立手数料 侵害と差止め
東京地裁、知財高裁、東京高裁

1.商標権

1-1.審決取消訴訟

拒絶査定不服審判、無効審判、不使用・不正使用取消審判の審決に対する訴訟は、訴額が算出できない場合に準じて160万円になります。従って、申立手数料は13,000円となります。訴額計算書の提出は不要です。ちなみに予納郵券は6,000円(被告1名の場合。なお当事者1名増すごとに2,178円追加)で、予納郵券の費用を保管金の納付や(電子納付等)に代えることも可能です。

1-2.商標権侵害の損害賠償請求

商標法第38条は以下の3つの侵害額算出方法を規定しており、提訴の際にはいずれかの算出法により訴額を計算することができます。

(1)損害賠償額の算定規定その1(商標法第38条第1項)

全体の損害額DAは、販売数量減少による逸失利益(D1)とライセンス機会の喪失による逸失利益(D2)の合計額となります。
侵害品の譲渡数量(t)が商標権者らの使用相応数量(u)を超えない部分について、損害額(D)は侵害品の譲渡数量(t)に権利者の単位数量当たりの利益(P)を乗じた金額となります。権利者の単位数量当たりの利益(P)は商標権者等が侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量あたりの利益額(いわゆる限界利益のことをいいます。)です。

D1=tP (但し t<u 又は t=u) D1:損害額、t:侵害品の譲渡数量、u:使用相応数量、P:権利者の単位数量当たりの利益

しかし、侵害品の譲渡数量(n)は商標権者らが販売できないとする事情によりその数が差し引かれることにもあります。事情に相当する数量は特定数量(s)と呼ばれ、この場合、侵害品の譲渡数量(n)から特定数量(s)を差し引いた上で権利者の単位数量当たりの利益(P)となります。販売することができない事情の例としては、例えば、侵害者の売上は主に侵害者側独自の営業努力であること、品質や価格の違いから模倣品に対する需要がすべて真正品に向かうとは認定できないといったこと、模倣品に類似の商標以外にも独自の商標が使用されており需要者が侵害者の商品であると認識しながら購入したこと、競合商品の存在とその影響があること、商標が模倣品の付加価値全体の一部にのみ貢献していることなどがあります。このような販売することができない事情については侵害者が主張・立証するとされています。

D1=(t-s)P

もし侵害品の譲渡数量(t)が商標権者らの使用相応数量(u)を超える場合については、超えた部分は登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額、即ちライセンス料(L)となります。この場合侵害の事実を前提として当事者間で合意をするであろう金額を考慮するとされています(商標38条4項)。

D2=L

全体の損害額DAはD1+D2になります。

DA=D1+D2

商標権侵害の損害賠償請求
商標法第38条第1項の損害賠償額の算出
(2)損害賠償額の算定規定その2(商標法第38条第2項)

損害額DAは侵害者が得た利益(IP)と推定されますが、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することが必要です。また、「侵害の行為により」得た利益といえるのは、模倣品の売上げに当該商標が貢献した部分(寄与した部分)に限られます。そのため、この寄与した部分の割合(寄与率c)が、損害賠償額の算定に当たり考慮されることがあります。

DA=cIP

(3)損害賠償額の算定規定その3(商標法第38条第3項)

損害額DAは登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額、即ちライセンス料(L)となります。この場合侵害の事実を前提として当事者間で合意をするであろう金額を考慮するとされています(商標38条4項)。

DA=L

商標法第38条
第三十八条
商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
一 商標権者又は専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額に、自己の商標権又は専用使用権を侵害した者が譲渡した商品の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該商標権者又は専用使用権者の使用の能力に応じた数量(同号において「使用相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
二 譲渡数量のうち使用相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(商標権者又は専用使用権者が、当該商標権者の商標権についての専用使用権の設定若しくは通常使用権の許諾又は当該専用使用権者の専用使用権についての通常使用権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額
2 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。
3 商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、商標権者又は専用使用権者が、自己の商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用の対価について、当該商標権又は専用使用権の侵害があつたことを前提として当該商標権又は専用使用権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該商標権者又は専用使用権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
5 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
6 第三項及び前項の規定は、これらの規定に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権又は専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
申立手数料

訴額からの申立手数料の計算は早見表が便利です。手数料額早見表(pdf)- 裁判所

民事訴訟費用等に関する法律 別表第一、第一項 下欄
訴訟の目的の価額に応じて、次に定めるところにより算出して得た額
(一) 訴訟の目的の価額が百万円までの部分
その価額十万円までごとに 千円
(二) 訴訟の目的の価額が百万円を超え五百万円までの部分
その価額二十万円までごとに 千円
(三) 訴訟の目的の価額が五百万円を超え千万円までの部分
その価額五十万円までごとに 二千円
(四) 訴訟の目的の価額が千万円を超え十億円までの部分
その価額百万円までごとに 三千円
(五) 訴訟の目的の価額が十億円を超え五十億円までの部分
その価額五百万円までごとに 一万円
(六) 訴訟の目的の価額が五十億円を超える部分
その価額千万円までごとに 一万円

1-3.商標権侵害の差止請求

 次のいずれかによるとされています。
(ア)原告の訴え提起時の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×10年×10分の1
(イ)被告の訴え提起時の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×10年×10分の1
(ウ)年間使用料相当額×10年×0.8

侵害行為の差止めとともに侵害の損害賠償請求をする場合には、差止請求に対する訴額と損害賠償請求に対する訴額の両方を合計した額が訴額となります。
侵害行為の差止めとともに侵害行為を組成する物の廃棄等を請求する場合(特許法100条2項,実用新案法27条2項,意匠法37条2項,商標法36条2項,不正競争防止法3条2項,著作権法112条2項,半導体集積回路の回路配置に関する法律22条2項,種苗法33条2項)には,差止請求の訴額のみとなります。

1-4.信用回復措置の請求

 信用回復のための広告等その措置に要する費用が認定できる場合はその額とし,措置の性質上,要する費用が認定できない場合,又は,算定が著しく困難な場合は160万円とする。

1-5.差止請求権の不存在確認請求

 原告の訴え提起時の年間売上高×原告の訴え提起時の利益率×10年×10分の1

1-6.権利の帰属の確認請求,移転登録手続請求

ア 次のいずれかによる。
 (ア) 訴え提起時の年間売上高×訴え提起時の利益率×10年×5分の1
 (イ) 原告が,鑑定評価書等により,権利の評価額,取引価格を疎明したときは,その額による。
イ 権利の範囲全部につき専用使用権が設定されている場合には,次のいずれかによる。
 (ア) 訴え提起時の専用使用権者の年間売上高×使用料率×10年×5分の1
 (イ) 年間使用料×10年×0.8

1-7.使用権の確認請求,設定登録手続請求,移転登録手続請求

 訴え提起時の使用権者の年間売上高×訴え提起時の使用権者の利益率×使用権の残存年数×5分の1
ただし,使用権の残存年数が10年以上の場合,又は,使用権設定契約の更新等により使用権が訴え提起時から10年以上継続する可能性が高い場合には,「使用権の残存年数」は10年とする。

1-8.抹消登録手続請求

 1-6,1-7の算定結果×2分の1

1-9.質権の設定・移転・変更・消滅に関する登録手続請求

 不動産を目的とする担保権に関する登録手続請求の算定方法を準用する。

2.不正競争防止法に基づく請求

2-1.不正競争防止法2条1項1号,2号,22号の不正競争行為の差止請求

 次のいずれかによる。
ア 訴え提起時の,原告の原告表示を使用した商品,営業,役務の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×10年×10分の1
イ 訴え提起時の,被告の被告表示を使用した商品,営業,役務の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×10年×10分の1
ウ 原告表示の年間使用料相当額×10年×0.8

2-2.不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の差止請求

 次のいずれかによる。
ア 訴え提起時の,原告の原告商品の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×請求可能年数×6分の1
イ 訴え提起時の,被告の被告商品の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×請求可能年数×6分の1
ウ 原告商品形態の年間使用料相当額×請求可能年数×0.9
ただし,アないしウの「請求可能年数」とは,訴え提起時から,同号所定の「他人の商品」に該当する原告商品が最初に販売された日から3年後の日までの期間をいう。

2-3.不正競争防止法2条1項4号ないし10号の不正競争行為の差止請求

 当該営業秘密の性質上アないしウのいずれかの方法により算定できるものは,アないしウのいずれかの方法により,算定できないもの,又は,算定が著しく困難なものは160万円とする。
ア 訴え提起時の,被告の当該営業秘密の使用等による原告の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×8年×8分の1
イ 訴え提起時の,被告の当該営業秘密の使用等による年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×8年×8分の1
ウ 当該営業秘密の年間使用料相当額×8年×0.8

2-4.不正競争防止法2条1項11号ないし16号の不正競争行為の差止請求

 当該限定提供データの性質上アないしウのいずれかの方法により算定できるものは,アないしウのいずれかの方法により,算定できないもの,又は,算定が著しく困難なものは160万円とする。
ア 訴え提起時の,被告の当該限定提供データの使用等による原告の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×8年×8分の1
イ 訴え提起時の,被告の当該限定提供データの使用等による年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×8年×8分の1
ウ 当該限定提供データの年間使用料相当額×8年×0.8

2-5.不正競争防止法2条1項17号,18号の不正競争行為の差止請求

 原告の訴え提起時の年間売上高減少額×原告の訴え提起時の利益率×8年×8分の1

2-6.不正競争防止法2条1項19号の不正競争行為の差止請求

 次のいずれかによる。
ア 訴え提起時の,被告ドメイン名使用による原告の商品,営業,役務の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×10年×10分の1
イ 訴え提起時の,被告ドメイン名使用による商品,営業,役務の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×10年×10分の1
ウ ア又はイにより算定できない場合,又は,算定が著しく困難な場合は,160万円とする。

2-7.不正競争防止法2条1項20号の不正競争行為の差止請求

 次のいずれかによる。
ア 訴え提起時の,被告表示の使用による原告の商品,営業,役務の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×10年×10分の1
イ 訴え提起時の,被告の被告表示を使用した商品,営業,役務の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×10年×10分の1

2-8.不正競争防止法2条1項21号の不正競争行為の差止請求

 160万円とする。

2-9.不正競争防止法14条に定める信用回復措置の請求

 信用回復のための広告等その措置に要する費用が認定できる場合はその額とし,措置の性質上,要する費用が認定できない場合,又は,算定が著しく困難な場合は160万円とする。

2-10.不正競争防止法19条2項に定める請求

 160万円とする。

3.行政訴訟

 160万円とする。ただし,当事者訴訟等訴額の算定が可能な場合には,その方法により算定する。

4.最高裁への上告若しくは上告受理申立

知的財産高等裁判所への控訴申立費用の2倍となります。従いまして、拒絶査定不服審判、無効審判、不使用・不正使用取消審判の審決に対する訴訟の上告の場合は、申立手数料は13,000円の2倍の26,000円となります

商標とは・商標登録とは vol.2
(商標関連訴訟の訴額と申立手数料)

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