商標権の信託

商標権信託の概要

商標権は無体財産権の1つであり、信託財産(res)にすることができます。信託法上は書面でも口頭でも信託が設定されるものとされていますが、特許庁での信託登録の際には信託証書が必要です。商標権の移転について原簿への登録は効力発生要件ですが、商標権についての信託の設定について特許庁に備えられた商標信託原簿への登録は第三者対抗要件です。例えば契約で信託を始めた場合でも信託の登録が無い時では、委託者(settlor)が第三者に同じ商標権についての信託を承諾し、その第三者が登録してしまった場合には、先の契約は第三者に対抗できず、第三者が受託者(trustee)となります。信託の登録の際には、受託者だけで特許庁に申請できるものと規定されており、委託者から受託者に商標権が移転されます。また、信託の利益を享受する受益者(beneficiary)については、委託者自身が受益者になる場合を自益信託、委託者以外の第三者が受益者となる場合を他益信託というように分類できます。なお、商標権についての信託の登録手数料は収入印紙で9000円で、特許や意匠の3000円に比べて高くなっております。また、登録以前の権利状態である商標登録出願により生じた権利についても信託財産とすることが可能です。

商標権の信託
商標権の信託

なお、2004年12月の信託業法改正に伴い,知的財産権の信託が可能になったというのは、実は信託銀行などの法人を受託者とする場合であって、自然人としては、その信託業法改正とは関係なく、未成年者、成年被後見人又は被保佐人でなければ受託者としての適格を備えたものとされ、大正の頃より商標権を含む知的財産権についての受託が可能でありました。例えば筆者が弁理士試験を開始した頃の法令集(昭和59年発行)にも信託の登録についての書式が掲載されています。弁理士や弁護士などの有資格者であれば不適格者もほぼいないと思われますので、受託者になることができます。

商標権信託の利用法

1.ライセンシングの管理

通常使用権などのライセンシングなどの管理を一括して財産管理の専門家に委ねることで、効率の良い財産管理をする場合、特に著作権との組み合わせでライセンシングを管理する必要がある場合に有効です。例えば、キャラクターなどのビジネスの場合には、著作権でのビジネス展開だけではなく、権利行使の容易性から一般的に商標権も取得することが行われており、その場合に更新手続やライセンス契約などの権利の管理を一括して受託者に任せることも可能です。また、非常に多くのライセンシー(通常使用権者)が見込まれる場合には、信託の設定で本業に専念できる利点もあります。

2.倒産や死亡の際の権利の管理

 
例えば複数のライセンシー(通常使用権者)がいる場合に、ライセンサー(商標権者)が経営危機となった時においては、商標権が債務者等によって整理される前に使用権料を確保することが得策となり、このような場合に財産の管理の目的で信託を設定することが有効です。また、個人で享有する商標権の相続をめぐって問題が生じそうな時には、信託による一元管理も解決法の1つと考えられます。

3.小口証券化による投資対象

信託業法の改正から、信託銀行も特許や商標権などの産業財産権についての信託を取り扱うことが可能となり、資産価値の高い商標権については小口の有価証券化によって投資対象とするような取り扱いも可能となります。この場合に信託登記の際に必要な信託契約書には特定目的信託である旨の表示が必要となります。また、受益証券を購入した者が受益者である地位を継承しますが、特定目的信託においては受益者の通知が省略され、流動化を促進するように構成されています。

商標権信託の登録手続

特許庁に商標登録原簿への信託による商標権移転の登録(甲区記録事項、信託番号の記載)と同時に商標信託原簿に登録が行われます。信託についての特許庁の登録は第3者対抗要件とされています。一般に信託の登録には、次の書類を提出します。

  • 商標権移転及び信託登録申請書
  • 信託契約証書
  • 商標登録令第10条で準用する特許登録令第58条に規定する書面
  • 委任状

なお、信託原簿は信託法に基づく信託の申請がなされた場合にその登録を行う原簿です。登録後の変更および消滅、ならびにこれらの権利の信託の終了などが記載されます。特許登録令第58条に規定する書面には、1)委託者、受託者及び受益者の氏名(名称)及び住所(居所) 2)信託管理人がいるときは、その氏名(名称)及び住所(居所) 3)信託の目的 4)信託財産の管理方法 5)信託の終了の理由 6)その他の信託の条項 が記載されます。また、国際登録の場合には、国際事務局が管理する国際登録簿と日本の特許庁が管理するマドプロ原簿とがあり、信託の登録については、日本の特許庁に対する手続とされますが、信託による移転は国際事務局への登録事項となります。従いまして、信託の登録の申請書を特許庁に提出すると共に国際事務局にも移転手続(MM5)を行います。

商標登録令(特許登録令の準用)第十条
第十条 特許登録令第十五条、第十八条から第二十一条まで、第二十三条、第二十四条、第二十七条から第三十六条まで、第三十七条第一項及び第二項、第三十八条(第一項第六号を除く。)、第三十九条から第四十二条まで、第四十三条第一項及び第二項、第四十六条から第五十三条まで、第五十五条から第五十五条の三まで、第五十五条の四(第二項を除く。)並びに第五十五条の五から第六十九条まで(登録の手続)の規定は、商標に関する登録の手続に準用する。この場合において、同令第二十三条第二項中「特許法第十五条」とあるのは「商標法第七十七条第二項において準用する特許法第十五条」と、同令第二十七条中「一 特許番号(登録の目的が仮専用実施権に関するときは、当該仮専用実施権の登録の申請に係る特許出願の表示)」とあるのは「一 商標登録の登録番号又は商標法第六十八条の二第一項に規定する国際登録の番号」と、「六 登録の目的」とあるのは「/六 登録の目的/七 商標法第二十四条第一項の規定による商標権の分割の登録を申請するときは、その分割に係る指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分/八 商標法第二十四条の二第一項の規定による移転の登録を申請するときは、その移転に係る指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分/」と、同令第三十条第二号中「若しくは世界貿易機関の加盟国」とあるのは「、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国」と、同号イ中「同盟国又は加盟国」とあるのは「同盟国、加盟国又は締約国」と、同令第三十三条第二項中「特許法第七十三条第二項(同法第七十七条第五項において準用する場合を含む。)」とあるのは「商標法第三十五条において準用する特許法第七十三条第二項(商標法第三十条第四項において準用する特許法第七十七条第五項において準用する場合を含む。)」と、同令第三十七条第二項中「特許権の設定の登録は、特許法第百七条第一項の規定による第一年から第三年までの各年分の特許料」とあるのは「商標権(商標法第六十八条の二十に規定する国際登録に基づく商標権(以下「国際登録に基づく商標権」という。)及び同法第六十八条の三十五の規定により設定の登録をすべき商標権を除く。)又は防護標章登録に基づく権利の設定の登録又は存続期間を更新した旨の登録は、同法第四十条第一項若しくは第二項、第四十一条の二第一項若しくは第七項又は第六十五条の七第一項若しくは第二項の規定による登録料」と、同令第三十八条第一項第三号中「特許番号(登録の目的が仮専用実施権に関するときは、当該仮専用実施権の登録の申請に係る特許出願の表示)」とあるのは「商標登録の登録番号若しくは商標法第六十八条の二第一項に規定する国際登録の番号」と、同条第三項中「第一項各号」とあるのは「第一項各号(第六号を除く。)」と、同令第四十六条第一項第三号中「特許法第九十五条」とあるのは「商標法第三十四条第一項」と、同令第五十五条の四第一項中「又はこれを目的とする質権」とあるのは「若しくは通常使用権又はこれらの権利を目的とする質権」と、同令第六十二条第一項中「特許権その他特許に関する権利の移転の登録」とあるのは「商標権その他商標に関する権利(国際登録に基づく商標権を除く。)の移転の登録又は国際登録に基づく商標権に係る商標信託原簿の登録」と、同令第六十七条及び第六十九条中「特許登録原簿又は特許仮実施権原簿」とあるのは「商標登録原簿」と読み替えるものとする。
特許登録令 第六節 信託に関する手続
(信託の登録の申請方法)
第五十六条 特許権その他特許に関する権利の信託の登録は、受託者だけで申請することができる。
(権利についての変更の登録の申請の特例)
第五十七条 信託法(平成十八年法律第百八号)第三条第三号に掲げる方法によつてされた信託による特許権その他特許に関する権利についての変更の登録は、受託者だけで申請することができる。
(信託の登録の申請の手続)
第五十八条 信託の登録を申請するときは、申請書に次に掲げる事項を記載した書面を添付しなければならない。
一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所又は居所
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所又は居所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所又は居所
五 信託法第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項の受益者の定めのない信託であるときは、その旨
七 公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨
八 信託の目的
九 信託財産の管理の方法
十 信託の終了の理由
十一 その他の信託の条項
2 前項の申請において、同項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを記載した書面を添付したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を記載した場合にあつては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した書面を添付することを要しない。
3 特許庁長官は、第一項各号に掲げる事項を、職権で、特許信託原簿に登録しなければならない。
第五十九条 受益者又は委託者は、受託者に代位して信託の登録を申請することができる。
2 第三十一条の規定は、前項の規定による申請に準用する。この場合には、申請書に登録の目的である特許権その他特許に関する権利が信託財産であることを証明する書面を添附しなければならない。
第六十条 信託の登録の申請は、信託に係る特許権についての移転若しくは変更又は信託に係る特許権以外の権利についての設定、移転若しくは変更の登録の申請と同時にしなければならない。
第六十一条 信託財産に属する特許権その他特許に関する権利が移転又は変更により信託財産に属さないこととなつた場合においてすべき信託の登録の抹消の申請は、特許権その他特許に関する権利についての移転又は変更の登録の申請と同時にしなければならない。
2 信託の登録の抹消は、受託者だけで申請することができる。
(受託者の変更)
第六十二条 受託者の変更があつた場合において、特許権その他特許に関する権利の移転の登録を申請するときは、申請書にその変更を証明する書面を添付しなければならない。
2 前項の規定は、信託法第八十六条第四項本文の場合においてすべき変更の登録に準用する。
第六十三条 受託者の任務が死亡、破産手続開始の決定、後見開始若しくは保佐開始の審判、法人の合併以外の理由による解散又は裁判所若しくは主務官庁(その権限の委任を受けた国に所属する行政庁及びその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関を含む。以下同じ。)の解任の命令により終了したときは、前条第一項の登録は、新受託者だけで申請することができる。
2 受託者が二人以上ある場合において、その一部の受託者の任務が前項に規定する事由により終了したときは、前条第二項の登録は、他の受託者だけで申請することができる。
第六十四条 裁判所書記官は、受託者の解任の裁判があつたとき、又は信託管理人若しくは受益者代理人の選任若しくは解任の裁判があつたときは、職権で、遅滞なく、特許信託原簿の登録を特許庁に嘱託するものとする。
第六十五条 主務官庁は、受託者を解任したとき、又は信託管理人若しくは受益者代理人を選任し、若しくは解任したときは、遅滞なく、特許信託原簿の登録を特許庁に嘱託するものとする。
第六十六条 裁判所書記官は、信託の変更を命ずる裁判があつたときは、職権で、遅滞なく、特許信託原簿の登録を特許庁に嘱託するものとする。
2 主務官庁は、信託の変更を命じたときは、遅滞なく、特許信託原簿の登録を特許庁に嘱託するものとする。
第六十七条 特許庁長官は、信託財産に属する特許権その他特許に関する権利について特許登録原簿又は特許仮実施権原簿に次に掲げる登録をするときは、職権で、特許信託原簿に登録しなければならない。
一 信託法第七十五条第一項又は第二項の規定による権利の移転の登録
二 信託法第八十六条第四項本文の規定による権利の変更の登録
三 受託者である登録名義人の氏名若しくは名称又は住所若しくは居所についての変更の登録又は更正の登録
第六十八条 第六十四条から前条までに規定する場合を除き、第五十八条第一項各号に掲げる事項について変更があつたときは、受託者は、遅滞なく、その変更を証する書面を添付して、特許信託原簿の登録を申請しなければならない。
2 受益者又は委託者は、受託者に代位して前項の規定による申請をすることができる。
3 第三十一条の規定は、前項の規定による申請に準用する。
(権利についての変更の登録等の特則)
第六十八条の二 信託の併合又は分割により特許権その他特許に関する権利が一の信託の信託財産に属する財産から他の信託の信託財産に属する財産となつた場合における当該特許権その他特許に関する権利に係る当該一の信託についての信託の登録の抹消及び当該他の信託についての信託の登録の申請は、信託の併合又は分割による特許権その他特許に関する権利についての変更の登録の申請と同時にしなければならない。信託の併合又は分割以外の事由により特許権その他特許に関する権利が一の信託の信託財産に属する財産から受託者を同一とする他の信託の信託財産に属する財産となつた場合も、同様とする。
2 信託財産に属する特許権その他特許に関する権利についてする次の表の上欄に掲げる場合における特許権その他特許に関する権利についての変更の登録(第五十七条の登録を除く。)については、同表の中欄に掲げる者を登録権利者とし、同表の下欄に掲げる者を登録義務者とする。
一 特許権その他特許に関する権利が固有財産に属する財産から信託財産に属する財産となつた場合
受益者(信託管理人がある場合にあつては、信託管理人。以下この表において同じ。)
受託者
二 特許権その他特許に関する権利が信託財産に属する財産から固有財産に属する財産となつた場合
受託者
受益者
三 特許権その他特許に関する権利が一の信託の信託財産に属する財産から他の信託の信託財産に属する財産となつた場合
当該他の信託の受益者及び受託者
当該一の信託の受益者及び受託者
(受託者の解任の付記)
第六十九条 特許庁長官は、第六十四条又は第六十五条の規定により受託者の解任に関し特許信託原簿に登録したときは、職権で、特許登録原簿又は特許仮実施権原簿にその旨を付記しなければならない。

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