訂正印の3つの利用方法 -特許事務所での便利な書面の訂正方法 ㊞

訂正印の原点

実は訂正印を使用して早く簡単に訂正可能

コロナ禍からの影響で生活様式が大きくリモートワークにシフトしたことを受けて、職場での捺印が見直され、日本政府は脱印鑑を目指す舵取りを始めています。特許業界でも多くの書類に対しては、電子的な対応で良くなり、実際に職印が押される機会も減ってきており、印鑑は今や絶滅危惧種ともなりつつあります。(例えば特許庁関係手続における押印の見直しについて | 特許庁参照) その一方で当事者系の無効審判、取消審判、異議申立などの手続では、原則紙による書類の提出がなされ、多くの証拠は紙ベースの書証であったりします。印鑑を使用することの短所は印鑑を押す場合にその印鑑自体が物理的にそこに在る必要がありますが、長所としては印刷物であっても、そこに手書きで書き込んで訂正することができる点で、これを可能にしているルールが訂正印です。最近では、書類に間違いがある場合は元の電子ファイルを訂正して再印刷すれば良いわけですが、元の電子ファイルがない場合やプリンターが近くにない場合では、印鑑による訂正の方が短時間で必要な修正を済ませることができます。日本語のワープロもやっと使われ始めた今から35年ほど前は、多くの特許庁へ提出する書類は和文タイプで作成され、その訂正は手書き訂正と訂正印の組み合わせで対処するのが当たり前でした。日付訂正など以下にいくつかの訂正印の使い方を例示します。
印鑑 訂正印 日付

1.日付訂正(訂正印 日付)

提出される書類で良く用いられるのが”日付訂正”です。訂正の仕方は、訂正対象の日付に線を引いて新たな正しい日付を記載し、その訂正した日付の右側の余白部分に「日付訂正」と書き込み、その書き込んだ日付訂正の文字に重なるように弁理士印などの職印を押します。文字を消すための線は単一の線でも良く二重線でも良いと思います。代理人が複数いる場合でも1つの訂正箇所に全員の印鑑を押す必要はなく、一名の代理人の印鑑の押印で足ります。

日付訂正の例  “日付訂正”の文字と押印

2.文字の加入・削除・訂正

願書、明細書やその他の提出書類の中の文字に、抜けがある場合、間違っている場合、不要な場合には、文字の加入・削除・訂正をすることができます。これらの文字の加入箇所、削除箇所、訂正箇所に直接訂正印を押してはいけないとされています。即ち、余白に加入○字などの表示をして、そこに訂正印を押します。詳しくは、加入の仕方は、加入する箇所から広がるような一対の引き出し線を描き、その引き出し線の他端側の間に加入する文字を記載します。その加入した文字の文字数をカウントし右側の余白部分に「加入○字」と書き込みます。○はカウントした文字数で、漢数字でも普通の数字でも可能です。その書き込んだ「加入○字」の文字に重なるように弁理士印などの職印を押します。

文字の加入 ”加入二字”の文字と押印

文字を削除する場合には、削除対象の文字に後からでも何が書いてあったか分かるように線を引いて、その削除をした文字の右端の余白に、削除した文字数を○とすると「削除○字」と書き込みます。削除した部分に同時に文字を加入する場合は、加入する文字を記載しながら、同様に加入した文字の文字数○とともに「加入○字」と書き込みます。同じ箇所に対して削除を加入をすることでき、「削除○字」と加入○字」を近くに配置して一度の押印で訂正を認めることができます。訂正は削除する文字数と加入する文字数が同じ数の場合に、「訂正○字」とすることができ、その書き込んだ「訂正○字」の文字に重なるように弁理士印などの職印を押します。「○字訂正/加入/削除」というように文字数を先に記載して職印を押印することも可能です。

文字の削除・加入・訂正の例  ”削除二字”の文字と”加入一字”の文字および押印、 ”訂正二字”の文字と押印

3.行/段落の削除

文字単位の訂正だけではなく、行単位での訂正も可能です。例えば、不要な行がある場合には、その文字数にかかわらず線を引いて、「削除○行」(○は削除する行数)とします。「○行削除」という訂正でも同じです。「削除○行」を記載したところに重なるように弁理士印などの職印を押します。

行ごと削除の例 ”削除一行”の文字と押印

訂正印以外の押印

代印

代印は印鑑を持ち合わせていない人の分を他人の印鑑を代わりに押す場合を言います。例えば、弁護士事務所の書類への押印作業の際に、同じく代理人や補佐人の弁理士がたまたま職印を持ち合わせていない場合では、弁護士が代わりに押印し、その右側に「代印」もしくは「代」と記載することがあります。

契印・割印

電子出願が開始される前は、紙の書類のとじ込みをホッチキスで行っており、昔のB5サイズの明細書では上下2箇所に大体パンチで穴を開けるような箇所で片面印刷の左端部の余白をホッチキスで綴じるようにしていました。用紙同士はホッチキスで止められているため、ホッチキスの針を外せばページごとにばらばらにすることもできます。そこで提出前には、見開きの用紙の間で両ページにわたる様に、概ね上端の余白になりますが、割印(正確には契印)を全部の見開き部分に押印していました。当時は、閲覧も書類を倉庫から出してきて複写物ではない本物の提出書類を直接見る方式を取っていましたので、意図しない脱落や差し替えみたいな不祥事を発生させない意味でも割印がなされていたと思います。代理人が複数いる場合には、誰か1人の割り印でもOKです。現在は、書類を紙で提出する場合でも契印・割印は不要です。

かつての紙出願時代の工業所有権出願書類については➡出願書類で商標は何色だったかご存知でしょうか?ベテランか否かを判別する紙出願時代のトリビア

消印

特許庁に提出する書類には、出願料や審査請求料、審判請求料などのオフィシャルフィーの納付のために特許印紙を貼付することがあり、また登録関係の書類には収入印紙を貼付することがあります。一般的に消印はこれら印紙に対して印鑑を押して使用したことを示す行為ですが、現在は特許庁に対して提出する書類に貼付される特許印紙や収入印紙を代理人や本人がその職印などで消すことはありません。これらの特許印紙や収入印紙に対して消印を押す係は特許庁の方式係の方となっています。しかし契約事項の代理人の場合は、印紙税の形で印紙に対して消印することもありそうです。電子出願が開始される前は、各出願に原則として委任状が添付され、その委任状には200円の収入印紙が貼られ、出願人の方が消印を押していましたが、これも不要となっています。

捨印

特許庁に提出する書類に捨印をすることはほぼ無いと思います。捨印は後での訂正を有効化するためのものと思いますが、特許、意匠登録、商標登録などの知的財産には入り込み難い概念になります。

英文の書類の訂正

英文の訂正には、近くにイニシャルを描きます。印鑑がないのが欧米の文化ですので、文字を訂正してその近傍にイニシャルや小さな署名を書きます。

押印の見直し(特許庁)

(2022.9.14追記)

特許登録令を含む「押印を求める手続の見直し等のための経済産業省関係政令の一部を改正する政令」及び「特許登録令施行規則等の一部を改正する省令」が公布され、令和3年6月12日以降に特許庁に提出する書面において、新たに一部の手続の押印が不要となりますのでお知らせします。

情報源: 特許庁関係手続における押印の見直しについて | 経済産業省 特許庁

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