中国商標制度🇨🇳 vol.1

中国商標制度 概要

中国は日本と同じく先願主義・登録主義を採用しており、商標の申請は国家市場監督管理総局(SAMR)の所属官庁である国家知識産権局(CNIPA)の商標局(以下、”中国商標局(CTMO)”)に行います。2014年5月1日から中国商標法改正に伴う実施条例の施行で、改正商標法22条で多区分制度が定められ、一商標につき複数の区分を指定して出願することが可能となりました。また、商標権の権利期間も日本と同じく登録から10年間権利が有効で、存続期間の更新申請を行なうことにより、更に10年毎に権利期間を更新することが可能です。

中国市場は世界で注目されている重要なマーケットの一つであり、商取引が非常に多く行われることから、中国国内における商標権取得の必要性は高く、商標出願件数は年々増加傾向にあります。中国商標局への出願件数は、2000年の時点では223,177件程だったのが、2009年の時点では830,477 件、2012年では1,648,316件、2018年では7.371百万にまで増加しており、非常に多くの商標が申請されていることが特徴です。数年前までは、中国は審査が遅く2年以上かかっておりましたが、現在は出願から最大9ヶ月以内という審査期間の上限が決められています。また、中国商標局では次の目標(2018年)を掲げています。出願から出願受理通知までを1か月、出願の審査を6カ月、商標の移転の審査を4カ月、商標の変更や更新の審査を2カ月、そして商標調査の遅れ期間を2カ月とするとしています。

中国の商標制度では、典型的な、文字商標、団体商標、証明商標、立体商標に加えて、新たに音声商標、色彩商標が登録とされ、商品、商品包装に使用される単一の色は、使用により顕著な特徴を取得し、当該商品をその他の商品と区別することができる場合、商標登録可能とされています。また、中国において音声商標の出願を希望する場合、まず、音声見本を用意する必要があり、音声見本は読み取り専用のCD-ROM に保存し、フォーマット形式はwav 又はmp3 でなければならず、ファイルサイズは5MB を超えてはいけないとされています。また、音楽形式の音声商標の場合、五線譜又は略譜で説明資料を提供することができ、一方、たとえば、動物の鳴き声、鐘の音等のような五線譜などでは説明できない音声商標の場合、文字による説明資料が必要です。

上海 中国
上海 中国

字体について

中国では中国国内で使用されている中国語(簡体字)だけではなく、日本語の漢字・ひらがな・カタカナ、更には世界で広く使用されている欧文字が商標として使用されていることから、中国商標局に申請されている言語も、多種多様な言語で商標申請がなされております。日本で一般的に使用している商標が例えば欧文字だった場合であっても、実際に中国で使用される商標の態様が簡体字であることも多く(又は欧文字とは別に簡体字を併記)、この場合には、簡体字についても商標を申請して取得した方が安全だと言われております。

尚、ひらがな・カタカナは原則として中国では図形として認識されますので、日本で一般的に使用している商標がひらがな・カタカナの場合には、中国で流通する際の商標についてご確認の上、特に簡体字での商標権取得も検討された方が良いと思われます。

拼音(ピンイン)について

拼音(ピンイン/Pinyin)は中国語のローマ字による表記法の1つで、中国語の漢字が全てアルファベットで表現できます。文字商標を漢字表記とした場合では、その漢字自体が商標の主要部であり、読み方に過ぎないピンイン同士の表記が同じや似ていても漢字部分が異なれば、類似ではないと判断されることが多いとされています。従いまして、商標の類否を拼音(ピンイン)で判断することは、誤りを生じやすく、現地代理人に類否判断を聞くべきと思われます。

中国語(簡体)表記での「商標」

商標 中国語(簡体)表記

中国商標出願に必要な書類

委任状(代理人により手続する場合に必要です。通常、依頼する旨の連絡をすると代理人から送られてきます。)、登記簿謄本(法人の登記事項証明書)、商標見本(画像データ)、出願人の氏名若しくは名称及び住所の英語表記と中国語表記、指定商品及び指定役務が必要になります。出願人の名称に、アルファベット/片仮名/平仮名が含まれる場合には、対応する漢字に替えておくことが必要です。

中国商標出願における注意点

中国では商標出願を行うと、データベースへの入力やオフィシャルフィーの入金確認などの一定期間経過後に出願番号通知が届き、そこで初めて出願番号を知ることが出来ます。審査上の特徴的な制度としては、主に以下のものが挙げられます。

1)審査意見書制度

従来は、実体審査で拒絶理由が発見された場合、日本で言うところの「拒絶理由通知」が無くいきなり「拒絶査定」が通知されてそこから15日以内の対応を迫られていましたが、改正法では、審査意見書制度が導入され、商標局が商標登録出願について説明又は修正する必要があると認めた場合、商標局は審査意見書(拒絶理由通知)を出願人に発行し、出願人は審査意見書を受領した日から15日以内に、出願の内容について説明又は補正をすることができます。この場合、1回の補正のみが可能であり、補正できない場合や補正が十分ではない場合、拒絶査定となります。

指定商品・役務の補正指令(Notice of Rectification)に対する回答は、30日以内にできることになりましたが、指令通りに標準記述へ補正または削除しなかった場合、審査部はいきなり「不受理通知」を発行することができるため、細心の対応が不可欠です。また、この手続では、補正が正式に受け取られるまで、2~3カ月はかかることになり、審査を急ぐ場合には、なるべく補正指令を受けないように標準的な指定商品・役務を記載することが求められます。

2)一部拒絶、一部登録制度あり

日本では指定商品/役務の「一部」でも拒絶理由が残っている場合には、指定商品/役務の全体が拒絶されてしまいますが、中国では拒絶理由の無い指定商品/役務は登録され、拒絶理由のある指定商品/役務のみが拒絶査定として通知されます。これは「一部拒絶」「一部登録」と呼ばれており、日本には無い制度となります。改正法では、一部拒絶査定の通知を受けた場合に、15日以内に拒絶査定の対象とならなかった部分の商品・役務(区分)を分割出願することが可能です。

3)拒絶査定は熟読が必要

「一部拒絶査定」と「(全部)拒絶査定」は同様の書面で通知されるため、拒絶査定が出たからといって、日本のようにすべての指定商品/役務が拒絶されたとは限りません。よって、中国では拒絶査定に応答しなくても、一部の指定商品/役務について商標権が発生していることがありますので「拒絶査定」の内容は熟読することが必要です。

4)商品や役務の指定についてはサブクラスの単位まで配慮

日本では、各類の小分類の全ての見出し文字を記載していくことで、その類に属する商品や役務の全部を指定することも可能ですが、中国ではサブクラス単位の指定となりますので、日本語の指定を単にそのままを翻訳して進めた場合、商品群に抜けが出る場合があります。例えば、25類の被服、帽子、履物をそのままサブクラスに落とし込むと、靴下、手袋、スカーフなどが脱落する可能であります。日本の類似群に近い概念ですが、必ずしも商品の小分けの仕方は同じではないので注意が必要です。

5)小売・卸売で認められているのは、医療用品、製剤、薬剤関連のみ

中国出願で35類の小売りを指定した場合でも、現状で認められいるのは、医薬用、獣医用、衛生用製剤及び医療用品の小売又は卸売役務、薬品の小売又は卸売役務、医薬用製剤の小売又は卸売役務、衛生製剤の小売又は卸売役務、医療用品の小売又は卸売役務、動物用薬品の小売又は卸売役務、獣医用製剤の小売又は卸売役務に限定されています。従いまして、中国商標出願で、他の製品を取り扱う場合や、小売もしくは卸売役務を広く指定した場合には、拒絶査定が通知されることになります。

6)権利の移転は権利範囲内の同一又は類似する商標を一括移転

商標権を移転する場合には、商標権者は、同一又は類似する商品について登録した同 一又は類似する商標を一括して移転しなければならないと規定されています。

中国商標制度手続き流れ
中国商標手続の流れ

中国と香港、澳門、台湾の関係は?

中国で商標権を取得しても、近隣の「台湾」,「香港」,「マカオ」には中国の商標権は及びません。「台湾」,「香港」,「マカオ」はそれぞれ商標出願を審査する官庁があり、もし、これらの国で商標権を取得したいのであれば、それぞれ個別に商標出願をして商標権を取得する必要があります。

マドプロと直接出願のメリット・デメリット

中国で商標権を取得する方法として、国際出願(マドプロ出願)と直接中国へ商標出願する2通りの方法があります。中国は、マドプロ加盟国ですので、マドプロを利用して中国で商標権を取得される方も多いように見受けられます。しかしながら、以下のようにマドプロ出願にはメリット・デメリットが存在しますので、取得したい商標に合わせてマドプロ・直接出願とを分けて検討し、適切な出願方法を検討する必要があります。

マドリッド制度のメリット

  1. 費用が安く済む場合がある
    中国に直接出願をした場合には、各区分毎に指定商品/役務の数が10を超えると、11個目以降の指定商品/役務については、個別に追加料金が発生するため、指定商品の数が膨大になった場合、直接出願は余計に費用が発生する可能性があります。一方、マドプロの場合には、そのような追加料金が発生しないこととなっておりますので、マドプロで中国を指定したほうが安く済む可能性があります。
  2. 更新管理が容易
    マドプロで中国を指定した場合には、登録日は国際登録日からの起算となり、WIPOに対する手続だけで更新をすることができ、特に現地代理人等を経由する必要がないため、マドリッド制度のほうが更新管理が楽になります。

マドリッド制度のデメリット

  1. 指定商品/役務の選定が難しい
    マドプロを利用する場合には、日本での基礎出願(若しくは基礎登録)が必ず必要となるため、日本の商標に係る指定商品/役務を基本として、中国での指定商品/役務の選定をすることが多くなります。その結果、例えば、第25類の「被服」には日本では「帽子」が含まれるところ、中国では「帽子」は「被服」の概念に含まれないため、マドプロを利用した結果、中国では「帽子」の権利が取れていなかった、というような事態が生じ得ます。
  2. 中国商標法について常に情報を入手する必要がある
    マドプロを利用した場合、場合によっては一度の拒絶通報もなされず、国際出願からストレートで中国での商標権が発生することがあります。これは大変好ましいことなのですが、言いかえればその権利に関して中国現地代理人が何ら関与していないため、ストレートで登録になった商標権は、日本の出願人が管理をすることになります。その結果、例えば10年間の権利存続期間の間に中国商標法の改正があった場合、中国の現地代理人を経由していないため、中国現地代理人から法改正の連絡は無く(通常、マドプロを管理している国際事務局からも法改正の通知は来ません。)、法改正で新たに導入された新制度の存在により、存続期間満了前にいつの間にか商標権が失効している、というような事態が生じ得ます。日本の特許事務所に国際出願を依頼している場合、その事務所が各国の法改正を追いかけている場合にはまだ安心ですが、そうでない場合には出願人が各国の法改正について積極的に情報を仕入れておく必要があります。
  3. 商標登録証が発行されない
    マドプロを利用した場合、自動的には商標登録証が発行されないことになります。しかし権利行使の際には必要となりますので、保護の拡張の後に、登録証の発行だけ依頼することもできます。

マドリッド制度の国際登録商標の異議申立期間

マドリッド制度の国際登録商標の異議申し立て期間は、国際公開の翌月の初日から3か月です。商標の国際公開日が2012年1月16日である場合、異議申立期間は2月1日から始まり、3か月間続き、4月30日に終わります。

異議申立とその成功可能性

近年、日本の地名に係る商標が既に中国において商標権を取得されていた、というような話がよくあります。中国における審査においては、「中国国内での認知度」というものが基準となっておりますので、日本の地名に限らず、日本である程度周知・著名な商標であっても、「中国国内」での認知度が高くない場合、中国では簡単に第三者が同じ商標について権利を取得出来る可能性があります。

現行法では、登録の前に異議申立期間というものがあり、この期間内であれば日本の商標の使用権者が異議申し立てを行うことは可能です。しかし、「中国国内での認知度」を立証するのは容易くなく、異議申立の成功確率はケースバイケースですが、簡単に審査結果が覆るというものでも無いと言われております。

これを防ぐためには、まず「日本の商標権は日本国内でのみ有効」であることを認識頂いた上で、誰よりも先に中国に商標出願をすることをお勧め致します。中国では日本と同じく、一定期間商標を不使用の場合には取り消される制度(不使用取消審判制度)がございますが、中国が世界における重要なマーケットの一つであることを考えると、実際の事業展開よりも早い段階で中国への商標出願を検討されることをお勧め致します。

また、新しい改正法では、絶対的な理由の異議申立案件の主体は相変わらず「何人」ですが、相対的な理由に基づき請求する異議申立案件の主体は「先行権利者、利害関係者」に限ると規定されています。

中国にも先使用権の規定がありますが、登録商標権者の出願日前に、先使用者が中国において周知であったことを立証することは実務上非常に困難で、実際の事業展開よりも早い段階で中国への商標出願を検討されることをお勧め致します。

更新登録

商標権の存続期間は登録日から10年です。また、商標登録更新出願を行う時期は、存続期間満了前12ヶ月以内になっています。存続期間満了後でも6ヵ月の更新延長期間があり、割増更新料を払えば更新させることができます。更新申請には、商標更新登録申請書に、委任状と商標権者の法人資格証明書類の写し(登記簿謄本)が必要です。なお、使用証明書の提出は不要です。

中国商標 制度 vol.2
国家知識産権局(CNIPA)

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