改正民法(平成29年法律第44号)と商標制度

明治時代の民法典の施行以来の122年ぶりの民法債権編の改正は、平成32年(2020年)4月1日を施行日としています。法改正の主な部分は債権法ですので、それを商標精度の枠組みで読み込む必要がありそうなところは改正法のさらに一部になります。商標制度に影響がありそうな新民法の法令を挙げてみます。

Contract

消滅時効(Statute of Limitations)

民法の消滅時効については、職業別の短期消滅時効等の廃止が行われ、消滅時効は全体的に簡素化した規定内容に変更されています。不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、被害者又はその法定代理人が損害を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する(民法第724条第1項)となり、不法行為の時から20年間行使しないときも時効によって消滅します。この内容は、旧法とほぼ変わりない内容となっています。また侵害事件については、不法行為による損害賠償請求権ではなく不当利得返還請求権(民法703条,704条)も請求可能ですが、これは従前のとおり、民法の債権の消滅時効期間の原則に従って10年(民法167条1項)を経て消滅時効が完成し、一般的にライセンス料程度とされる不当利得返還請求権についても新民法で時効の変更はありません。なお、不当利得返還請求権は権利者が侵害行為を知らなくとも時効が進行し、侵害者が不当利得行為をしたときからクロックはスタートします。当事者間に契約がある場合の時効としては、商標権使用権の契約違反などの場合が考えられ、従来は商法522条の商事時効の規定が存在していましたが、商法522条は削除されて、民法の債権等の消滅時効の規定(民法166条)が効力をもちます。今回の改正で2重の起算点のルールが導入され、1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(主観的起算点)。2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(客観的起算点)。1)と2)のどちらかで時効が完成します。一般には、商標権使用権の契約違反は、5年の時効となるものと考えられます。また、時効の完成については、裁判上の請求や仮差押え、仮処分などの各事由があるときは、その事由が終了した時から6か月を経過するまでは時効は完成しないものと規定(民法147条、149条)されています。しかし、「イ号標章に本件登録商標権の効力が及ばないとの判定請求に対する特許庁の判定があるまで時効の進行は開始しない旨の原告の主張は理由がない。」とした判例(長野地裁 昭和 57(ワ)167)があり、特許庁への判定請求や無効審判請求も時効の完成には影響がないものと考えられています。なお、裁判所に対しては、信用回復措置請求(商標法39条で準用する特106条)を求めることができ、この信用回復措置請求権の時効は、損害賠償請求と同じで被害者又はその法定代理人が損害を知った時から3年間となります。差止請求権(商標法36条1項)と廃棄請求権(商標法36条2項)には、時効はありません。

債権者代位権の転用

登記・登録の請求権を保全するための債権者代位権についての規定が設けられています(民法423条の7)。すなわち、”登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。”と規定されており、例えば、商標権を甲から乙に移転する際には、移転の登録が商標原簿に対して必要となりますが、甲がその登録をしないままに、乙が第3者の丙にさらに権利移転をした場合には、丙は乙に変わって甲に対して登録の請求を行使することができることになります。

代理(Agency)

新民法第107条では、「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定しており、代理権の濫用について明文化されています。代理権を有しない者がした行為とみなすということは、無権代理とみなすことになり、無権代理の規定(新民法第113条乃至第117条)が適用されます。