日本の世界農業遺産(15)と日本農業遺産(24)

世界農業遺産(GIAHS)について

世界農業遺産(GIAHS. Globally Important Agricultural Heritage Systems)とは国際連合食糧農業機関(FAO)により認定される、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)です。社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自の伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、景観、生物多様性などが一体となった農林水産業を営む地域が認定されます。世界農業遺産として認定されるためには、FAOが定める次の5つの認定基準と保全計画に基づいて申請された地域が評価されることになります。世界農業遺産は、次世代に継承すべき伝統的な農業の仕組みを認定し、その保全と持続的な利用を目的としています。

  1. 食料及び生計の保障(Food and Livelihood Security) 地域コミュニティの食料及び生計の保障に貢献するものであること。
  2. 農業生物多様性(Agro-biodiversity) 食料及び農林水産業にとって世界(我が国)において重要な生物多様性及び遺伝資源が豊富であること。
  3. 地域の伝統的な知識システム(Local and Traditional Knowledge systems) 「地域の貴重で伝統的な知識及び慣習」、「独創的な適応技術」及び「生物相、土地、水等の農林水産業を支える自然資源の管理システム」を維持していること。
  4. 文化、価値観及び社会組織(Cultures, Value systems and Social Organisations) 地域を特徴付ける文化的アイデンティティや土地のユニークさが認められ、資源管理や食料生産に関連した社会組織、価値観及び文化的慣習が存在すること。
  5. ランドスケープ及びシースケープの特徴(Landscapes and Seascapes Features) 長年にわたる人間と自然との相互作用によって発達するとともに、安定化し、緩やかに進化してきたランドスケープやシースケープを有すること。

システムの持続性のための保全計画(Action Plan for Sustainability of the Systems) 申請地域は、農林水産業システムを動的に保全するための保全計画を作成すること。

世界農業遺産の登録数

令和6年1月5日現在「世界農業遺産」の認定登録数は、世界中で26ヶ国86地域、日本では15地域が認定されています。アジアの世界農業遺産認定は53地域(中国22地域、韓国7地域)です。
Globally Important Agricultural Heritage Systems (GIAHS)

世界農業遺産のロゴマーク

GIAHS Logo

日本農業遺産((J‐NIAHS)について

日本農業遺産((J‐NIAHS:Japanese Nationally Important Agricultural Heritage Systems)とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープ及びシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、我が国において重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)であり、農林水産大臣により認定されます。日本農業遺産については、世界農業遺産の5つの認定基準に、日本が独自に定めた3つの基準を加えた8つの認定基準)及び保全計画に基づき評価されます。

  1. 食料及び生計の保障(Food and Livelihood Security) 地域コミュニティの食料及び生計の保障に貢献するものであること。
  2. 農業生物多様性(Agro-biodiversity) 食料及び農林水産業にとって世界(我が国)において重要な生物多様性及び遺伝資源が豊富であること。
  3. 地域の伝統的な知識システム(Local and Traditional Knowledge systems) 「地域の貴重で伝統的な知識及び慣習」、「独創的な適応技術」及び「生物相、土地、水等の農林水産業を支える自然資源の管理システム」を維持していること。
  4. 文化、価値観及び社会組織(Cultures, Value systems and Social Organisations) 地域を特徴付ける文化的アイデンティティや土地のユニークさが認められ、資源管理や食料生産に関連した社会組織、価値観及び文化的慣習が存在すること。
  5. ランドスケープ及びシースケープの特徴(Landscapes and Seascapes Features) 長年にわたる人間と自然との相互作用によって発達するとともに、安定化し、緩やかに進化してきたランドスケープやシースケープを有すること。
  6. 変化に対するレジリエンス 自然災害や生態系の変化に対応して、農林水産業システムを保全し、次の世代に確実に継承していくために、自然災害等の環境の変化に対して高いレジリエンス(強靭性)を保持していること。
  7. 多様な主体の参画 地域住民のみならず、多様な主体の参画による自主的な取組を通じた地域の資源を管理する仕組みにより、独創的な農林水産業システムを次世代に継承していること。
  8. 6次産業化の推進 地域ぐるみの6次産業化等の推進により、地域を活性化させ、農林水産業システムの保全を図っていること。

日本農業遺産の登録数

日本農業遺産の登録数は令和5年9月時点で24です。

世界農業遺産と日本農業遺産

番号 遺産名称 世界・日本及び登録年 説明 Website/Movie Logo
1 岩手県束稲山麓地域「束稲山麓地域の災害リスク分散型土地利用システム」 日本農業遺産(R5) 洪水害や干ばつなどの自然災害から生命(いのち)と生活(くらし)を守るため、各農家が山麓地と低平地の両方に農地を分散所有し、自然災害のリスクを軽減。 岩手県県南広域振興局
2 宮城県大崎地域 「『大崎耕土』の巧みな水管理による水田システム」 日本農業遺産(H28)
世界農業遺産(H29)
冷害や洪水、渇水が頻発する自然条件を耐え抜くために、巧みな水管理や屋敷林「居久根」による災害に強い農業・農村を形成。 大崎地域世界農業遺産推進協議会 osaki
3 山形県最上川流域「歴史と伝統がつなぐ山形の「最上紅花」~日本で唯一、世界でも稀有な紅花生産・染色用加工システム~」 日本農業遺産(H30) 染料利用を目的とした紅花生産と染色用素材である「紅餅」への加工技術が、約450年にわたり農家に代々受け継がれてきた、世界的にも珍しい農業システム。 山形県紅花振興協議会 n/a
4 埼玉県武蔵野地域 「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」 日本農業遺産(H28)
世界農業遺産(R5)
火山灰土に厚く覆われ痩せた土地に、江戸時代から木々を植えて平地林を育て、落ち葉を集めて堆肥として畑に入れ、土壌改良を行うことで安定的な生産を実現し、その結果として景観や生物多様性を育むシステムが、今なお継承されている。 武蔵野の落ち葉堆肥農法世界農業遺産推進協議会
5 埼玉県比企丘陵地域「比企丘陵の天水を利用した谷津沼農業システム」 日本農業遺産(R5) 河川からの引水が難しい丘陵地で、谷筋ごとに多数のため池を築くことで用水を確保。天水のみを水源とする農業システムは貴重な生態系や文化を守り育んでいる。 滑川町 n/a
6 山梨県峡東地域 「峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム」 日本農業遺産(H28)
世界農業遺産(R4)
扇状地の傾斜地において、土壌や地形、気象等に応じた、ブドウやモモなどの果樹の適地適作が古くから行われ、独自のブドウの棚式栽培が開発され、現在まで継承されている。 峡東地域世界農業遺産推進協議会
7 静岡県掛川周辺地域 「静岡の茶草場農法」 世界農業遺産(H25)
茶畑の周りの草地(茶草場)から草を刈り取り茶畑に敷く伝統的な茶草場農法を継承。草刈りにより維持されてきた草地には、希少な生物が多数生息。 世界農業遺産「静岡の茶草場農法」 推進協議会
8 静岡県わさび栽培地域 「静岡水わさびの伝統栽培」 日本農業遺産(H28)
世界農業遺産(H29)
日本の固有種であるわさびを、沢を開墾して階段状に作った わさび田で、肥料を極力使わず湧水に含まれる養分で栽培する伝統的な農業を継承。 静岡わさび農業遺産推進協議会
9 新潟県佐渡市 「トキと共生する佐渡の里山」 世界農業遺産(H23) 生きものを育む農法を島内の水田で実施し、トキをシンボルとした豊かな生態系を維持する里山と、集落コミュニティを高める多様な農村文化を継承。 佐渡市
10 新潟県中越地域 「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム」 日本農業遺産(H28) 水の少ない山間地において、横井戸や雪解け水を利用した稲作と養鯉が伝統的に行われ、突然変異の色鯉を育種した、錦鯉の発祥の地. 長岡・小千谷『錦鯉発祥の地』活性化推進協議会 n/a
11 富山県氷見地域「氷見の持続可能な定置網漁業」 日本農業遺産(R2) 資源や環境にやさしい氷見の定置網漁業は、400年以上前から農林業や文化、信仰などと深く関わりながら、全国の定置網漁業のモデルである「越中式鰤落し網」に発展し、今でも地域を支えている。 氷見農業遺産推進協議会
12 石川県能登地域 「能登の里山里海」 世界農業遺産(H23) 急傾斜地に広がる棚田や潮風から家屋を守る間垣など独特の景観を有する。江戸時代から続く揚げ浜式製塩法や海女漁などを継承。 「能登の里山里海」世界農業遺産活用実行委員会
13 福井県三方五湖地域「三方五湖の汽水湖沼群漁業システム」 日本農業遺産(H30) 塩分濃度が異なる5つの湖で、400年以上の歴史を有するたたき網漁等の獲りすぎない伝統漁法、漁獲量や漁期の申合せ、相互監視などにより豊富な生物多様性が保全されている 三方五湖世界農業遺産推進協議会
14 岐阜県長良川上中流域 「清流長良川の鮎」 世界農業遺産(H27) 長良川は、水源林の育成や河川清掃などの人の管理により清流が保たれる「里川」であり、友釣り、鵜飼漁、瀬張り網漁等、鮎の伝統漁法が継承されている。 世界農業遺産「清流長良川の鮎」推進協議会
15 三重県鳥羽・志摩地域 「鳥羽・志摩の海女漁業と真珠養殖業」 日本農業遺産(H28) リアス海岸地形が育む豊かな藻場や豊富な植物プランクトンを利用し、アワビなどを漁獲する海女漁と世界に先駆けて発達した真珠養殖が持続的に営まれる里海システム。 三重県 n/a
16 三重県尾鷲市、紀北町 「急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業」 日本農業遺産(H28) 急傾斜地かつ多雨という地理的条件のなかで、ヒノキの密植と適切な密度管理により、強度が高く木目が美しい高品質なヒノキを持続的に生産する独自の伝統技術が発達。 尾鷲林政推進協議会
17 滋賀県琵琶湖地域「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」 日本農業遺産(H30)
世界農業遺産(R4)
水田営農との深い関わりの中で発展してきた伝統的な琵琶湖漁業がその中心。“里湖(さとうみ)”とも呼ばれる循環型システムで、千年の歴史を有するエリ漁や独特の食文化が継承されている。 滋賀県
18 兵庫県兵庫美方地域「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」 日本農業遺産(H30)
世界農業遺産(R5)
全国に先駆けて牛籍簿を整備し、郡内産にこだわった和牛改良を行うことで、独自の遺伝資源が保全されてきた。但馬牛の飼養は、地域の草原や棚田の維持、農村文化の継承にも貢献。 新温泉町
19 兵庫県丹波篠山地域「丹波篠山の黒大豆栽培~ムラが支える優良種子と家族農業~」 日本農業遺産(R2) 水不足を克服するために稲作をしない犠牲田を設け、黒大豆の栽培を可能にする「乾田高畝栽培技術」を生み出した約300年前から継承される農業。 丹波篠山市農業遺産推進協議会
20 兵庫県南あわじ地域「南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム」 日本農業遺産(R2) 農地が少なく、水に恵まれない「島という環境」で発達してきた効率的な水利用や耕種農家と畜産農家の各階層が小規模集落内で補完関係を構築して資源循環型農業を行う、独創的で伝統的な知識システム 南あわじ市 n/a
21 和歌山県みなべ・田辺地域 「みなべ・田辺の梅システム」 世界農業遺産(H27)
養分に乏しい斜面の梅林周辺に薪炭林を残し、水源涵養や崩落を防止、薪炭林を活用した紀州備長炭の生産と、ミツバチを受粉に利用した梅栽培。 みなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会
22 和歌山県海南市下津地域「下津蔵出しみかんシステム」 日本農業遺産(H30)
園内に設置した土壁の藏でみかんを熟成させる「蔵出し技術」を生み出し継承している。下津地域はみかん発祥の地と云われ、みかんに関連した独特の文化を形成している。 下津蔵出しみかんシステム日本農業遺産推進協議会事務局
23 和歌山県高野・花園・清水地域「聖地 高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム」 日本農業遺産(R2) 物資調達が困難な山上の聖地 高野山を支えるとともに、高野山との結びつきのなかで、平地の少なさを乗り越え、暮らしを発展させてきた持続的農林業システム。 有田川町
24 和歌山県有田地域「みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム」 日本農業遺産(R2) みかん栽培を日本で初めて生計の手段に発達させるとともに、みかん農家・苗木農家・出荷組織が連携し、産地全体で日本一の「有田みかん」産地を形成・維持してきた地域共同のシステム。 有田川町
25 徳島県にし阿波地域 「にし阿波の傾斜地農耕システム」 日本農業遺産(H28)
世界農業遺産(H29)
急傾斜地にカヤをすき込んで土壌流出を防ぎ、独自の農機具を用いて段々畑を作らずに斜面のまま耕作する独特な農法で、在来品種の雑穀など多様な品目を栽培している。 徳島剣山世界農業遺産推進協議会
26 島根県奥出雲地域「たたら製鉄に由来する奥出雲の資源循環型農業」 日本農業遺産(H30)
鉱山跡地を棚田に再生し、採掘のために導いた水路やため池を再利用するなど、独自の土地利用により稲作や畜産を中心とした複合的な農業が営まれてきた。 奥出雲町
27 愛媛県南予地域「愛媛・南予の柑橘農業システム」 日本農業遺産(H30)
急傾斜かつ複雑に入り組んだ海岸線に柑橘園地が広がり、壮大で独特な景観を成している。厳しい地形条件を克服するため、様々な工夫や特徴のある社会基盤、ストックが存在している。 愛媛県南予地域農業遺産推進協議会
28 熊本県阿蘇地域 「阿蘇の草原の維持と持続的農業」 世界農業遺産(H25) 「野焼き」「放牧」「採草」により草原を人が管理することで日本最大級の草原を維持。草を活用し長年農業が行われて景観が保持され、数多くの希少な動植物が生息。 阿蘇地域世界農業遺産推進協会
29 大分県国東半島宇佐地域 「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」 世界農業遺産(H25) 降水の少ない半島で、椎茸栽培に用いる原木用のクヌギ林により水源かん養し、ため池を連結させることで水を有効利用。 国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会
30 宮崎県高千穂郷・椎葉山地域 「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」 世界農業遺産(H27) 険しく平地が少ない山間地において、針葉樹による木材生産と広葉樹を活用したしいたけ栽培、和牛や茶の生産、焼畑等を組み合わせた複合経営 世界農業遺産高千穂郷・椎葉山地域活性化協議会
31 宮崎県日南市「造船材を産出した飫肥林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」」 日本農業遺産(R2)
漁獲効率よりもかつお資源を守ることを優先した、300年の歴史を有する伝統漁業で、広大な飫肥杉人工林の恵みを伝統漁や地域で活用しながら継承されている。 日南かつお一本釣り漁業システム
32 宮崎県田野・清武地域「宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム」 日本農業遺産(R2)
耕畜連携による土づくりを行いながら、季節に柔軟に対応した露地畑作の高度利用を実現。冬季の乾燥した冷たい西風を活用して大根を干すために組まれる「大根やぐら」は特徴的な農村景観を形成している。 田野・清武地域日本農業遺産推進協議会

国際連合食糧農業機関 動画

世界農業遺産 申請から認定まで~次世代に継承するために~, 20:01

世界農業遺産 申請から認定まで~次世代に継承するために~

日本農業遺産 動画

ニッポンの農業遺産、10:24 

ニッポンの農業遺産

世界農業遺産・日本農業遺産(農林水産省)世界農業遺産と日本農業遺産
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