商標法違反とは
商標法には、民事上の救済規定だけではなく、いくつかの行為を反社会的な犯罪行為として刑事罰の対象とする規定が存在しています。刑法は罪を犯す意なき行為はこれを罰せずとしていますので、犯罪の成立には故意が必要(故意責任の原則)となります。商標法違反は、秘密保持命令(第81条の2)違反を除き、告訴がなくても起訴できる非親告罪となります。
1.商標侵害罪
商標権を侵害した者は、侵害罪が適用されます。専用権についての直接侵害は第78条に規定され、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金とされているのに対し、所謂禁止権範囲の間接侵害と、予備的行為による間接侵害については5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金とされています。偽物のブランド品等の知的財産を侵害した物品の輸出入やネット販売などでは、商標権を侵害する偽物ブランド品を譲渡のために所持した容疑として逮捕・拘留されることがあり、正式起訴、略式起訴、不起訴のいずれかの処分がなされます。商標侵害罪の争点としては、故意の要件が挙げられており、故意については、確定的な故意だけではなく、未必の故意(商標権侵害を確かめた訳ではないが、該当する行為が侵害行為となっても構わないとする状態)でも良いとされています。“所謂ラーク事件”(東京地裁判決昭和62年9月3日)では“未必的な故意あり”とし犯意を認めています。当該事件では、被告人がライターに著名な煙草ラークのマークを付して販売したもので、被告人は一般に商標権というものがあることを知っており、ライター製作の依頼者に商標について尋ねたところ、ラーク社はたばこを作っているのでライターは大丈夫との返答を安易に信じて、商標調査するまでもないとしていました。本件が判示するところは、侵害の蓋然性が高いにもかかわらず”商標調査なし”では犯意が否定されないという点と思われます。また、商標の類否も類似と非類似の間の微妙なレベルでは、犯意が否定される可能性もあり、そもそも警察が動くということがほぼ無い訳ですが、同一の商標や同一の商品については、同一性があれば良いとするように社会通念上の幅のある範囲となっています。、
2.詐欺行為罪
詐欺の行為で商標登録等についての決定や審決を得た者は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金と規定されています。商標登録等の決定や審決には裁判所の判決が含まれず、いずれも特許庁の処分になります。例えば、第3者の利益を阻害する目的で、請求人と被請求人が共謀して無効審決を得る場合があげられます。
3.虚偽表示の罪
商標法第74条(下記参照)に虚偽表示が列挙されています。商標法では、商標登録についての表示は、義務ではなく努めなければならないとされており、第00000号を含まない単に”商標登録”との不完全な表示自体は問題となりません。しかし、74条2項は、指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為と規定されていますので、例えば禁止権範囲である指定商品に類似する商品に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為は虚偽表示として商標法違反となります。
4.偽証の罪
審判事件では特許庁、侵害事件等では地方裁判所において、証拠調べや証拠保全をすることができますが、その場合には証人を宣誓させて陳述するということができます。宣誓した証人が嘘の陳述(自分の記憶に反する陳述)をした場合に偽証罪に問われることになります。3月以上10年以下の懲役の量刑となっています。偽証罪では、決定若しくは審決が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができるとされています。
5.秘密保持命令違反の罪
秘密保持命令は、商標権侵害訴訟に関して営業秘密についての開示がなされる場合、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずるものになります。この秘密保持命令について違反場合には、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金の量刑となります。秘密保持命令違反の罪は告訴を要する親告罪です。なお、商標法には特許法などにある秘密漏洩罪(特許法第200条)に該当する規定はありません。
6.両罰規定
法人については、その業務に関して侵害行為を行った場合、その実行行為者の処罰に加えて、業務主体たる法人にも罰金刑が科されるとする、いわゆる両罰規定がおかれています。商標権侵害事件では実効を図るために過去に引き上げられて3億円以下の罰金刑となります。また、詐欺行為罪と虚偽表示罪にも両罰規定の適用があり、量刑は1億円以下の罰金刑となっています。
商標法の条文

