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Section 2(e)(4) Refusalとは
米国での商標登録を図る場合に、最も良くないパターンは既に競合する商標が存在しているケースですが、競合するような他人の商標がない場合でも識別力がない商標は拒絶されることがあります。Section 2(e)(4) Refusalはそのような識別力がないと判断された商標に対する拒絶理由の1つで、登録しようとしている商標が単なる姓(merely a surname)に過ぎないと判断された場合に打たれる拒絶理由です。詳しくは、拒絶理由は”primarily merely a surname”となっていて、”主に”単なる姓では登録できないとするものであって、単なる姓であっても主には違う意味で使用される語や言葉(例えば”King”や”Woods”のように姓でもあるが、商品等の関係では一般的に普通名詞の意味で理解される語など)は単なる姓の拒絶理由は当てられないことになります。さらに単なる姓である商標であっても登録することは可能で、それには長期で継続的な使用による獲得した識別力(acquired distinctiveness)を有する場合には、例えば自動車について識別性を獲得しているスズキやホンダのように登録できることになります。
単なる姓(merely a surname)を認定するための視点
登録しようとする商標(applied-for mark)が指定する商品や役務に関連して一般の人々がそれは姓だと認識されているならば、単なる姓として拒絶されます。この場合に、一般の人々の認識を定めるために、典型的には、次の5つの視点から問われます。
- その姓が珍しいかどうか (whether the surname is rare (see TMEP §1211.01(a)(v)))
- その語が出願人に関連した誰かの姓かどうか (whether the term is the surname of anyone connected with the applicant)
- その語が姓以外の意味あるものとして認識されているかどうか (whether the term has any recognized meaning other than as a surname (see TMEP §§1211.01(a)–1211.01(a)(vii)))
- それは姓の構造と発音なのかどうか (whether it has the “structure and pronunciation”(以前は”look and feel”) of a surname (see TMEP §1211.01(a)(vi)))
- 綴りのデザイン化が別の商業的印象を生むのに十分なまでに顕著かどうか(whether the stylization of lettering is distinctive enough to create a separate commercial impression (see TMEP §1211.01(b)(ii))
主に単なる姓
これらの視点については、全部が問われなければならないというものではなく、例えば商標が普通のフォントからなる場合には(5)の視点では考慮されないことになります。審査官は一般の人々の視点(“primary significance to the purchasing public” test)で単なる姓か否かを判断するものとされています。また、姓以外の他の意味を持つとして認識されるかは、獲得した識別力の証拠を必要とせずに判断されることになっています。通常の意味を持つ語句と同類の発音をする語句であっても、それは単なる姓として判断されることもあります。 In re Pickett Hotel Co., 229 USPQ 760 (TTAB 1986) (holding PICKETT SUITE HOTEL primarily merely a surname despite applicant’s argument that PICKETT is the phonetic equivalent of the word “picket”). もし登録しようとする商標の語句が有名な地理的意味を有するならば、姓名の意味があったとしても単なる姓ではないと判断されることもあります。また、もし登録しようとする商標の語句が歴史上の場所や人物の名前であるならば、姓名の意味があったとしても単なる姓ではないと判断されることもあります。 Lucien Piccard Watch Corp. v. Since 1868 Crescent Corp., 314 F. Supp. 329, 331, 165 USPQ 459, 461 (S.D.N.Y. 1970) (holding DA VINCI not primarily merely a surname because it primarily connotes Leonardo Da Vinci).また名前が珍しいかどうかは、その語句が単なる姓と判断するためには重要な要素です。In re Joint-Stock Co. “Baik,” 84 USPQ2d 1921, 1924 (TTAB 2007) (finding the extreme rarity of BAIK weighed against surname refusal); In re Benthin Mgmt. GmbH, 37 USPQ2d 1332, 1333 (TTAB 1995) (finding the fact that BENTHIN was a rare surname to be a factor weighing against a finding that the term would be perceived as primarily merely a surname).更に、登録しようとする商標の語句が単なる姓かどうかを判断する際に、審査官はその語句が外国語で意味を持っているかどうかを考慮する必要があります。外国同等物の論理(the doctrine of foreign equivalents)は絶対的なものではではなく、単なるガイドラインであり、普通のアメリカ人の購入者(the ordinary American purchaser)が外国語を英語の同等物に止めて翻訳する可能性が高い場合にのみ適用されます。なお、普通のアメリカ人の購入者には英語以外の言語に堪能な人を含むすべてのアメリカ人の購入者が含まれます。
登録しようとする語句が他の要素と結合する場合
2つの姓の組み合わせ(例えば、SCHAUB-LORENZ)は、一般的に主に単なる姓ではありません。また、独特の様式やデザイン要素と結びついた語句は、主に単なる姓とは見なされません。姓に先行する2つ以上のイニシャルで構成される標章は、通常、個人名の商業的印象を伝えるため、一般的に主に単なる姓ではありません。姓に先行するイニシャルが1つだけの場合には、その標章を主に単なる姓と見なさなければならないという決まったルールはなく、個別に判断されます。 “Mr.,” “Mrs.,” “Mlle.,” “Dr.,” or “MD,” のようなタイトルの付加は、むしろ語句が単なる姓であることを助長することになります。”Corporation”、”Inc”、”Ltd.”、”Company”、または”Co.”などの出願人の法人を単に示す文言の追加、または出願人の家族の事業構造 ”&Sons”または”Bros.”は姓の意味合いを減じることはありません。例えば、S. SEIDENBERG & CO’SやVOSE & SONSは単なる姓と判断されています。追加の語句が単に説明的または同等であり、権利不要求扱い(disclaimer)が他の点で適切である場合、審査官は追加の語句の免責を要求する必要があります。例えば、HUTCHINSON TECHNOLOGY for computer componentsはTECHNOLOGYが権利不要求扱いであっても主に単なる姓ではないと判示されています。
認定の根拠となる証拠
単なる姓であるかどうかは、審査官側に最初の証拠を挙げる必要があり、それが出された場合には挙証責任は出願人側に転換します。電話帳の一覧は、有効な証拠と考えられていますが、現状の審査では LexisNexis® Research Database、Public Recordsで姓として検索されているかどうかで、姓かどうかを判定する例が多いものと思います。また、アメリカ合衆国国勢調査局(United States Census Bureau)のサイト(Frequently Occurring Surnames from the 2010 Census)にも米国の姓についてのデータがあります。商標の使用に関する証拠も単なる姓であるとする証拠になり得るとされており、判例によればワインのラベルに記載された個人名から姓であることを理由付けした例があります。
単なる姓と認定された場合の取りうる措置
単なる姓であることを理由とする拒絶を受けた場合には、1)単なる姓であるとの認定に対して反論する。2)獲得した識別力(acquired distinctiveness)を有することを示す。3)補助登録(Supplemental Register)に登録を替える。の3つの取り得る措置がありますが、マドプロベースの出願の場合には、補助登録への変更ができませんので、補助登録でも良い場合にはマドプロではなくアメリカ合衆国への直接出願を再度行う必要があります。
獲得した識別力(acquired distinctiveness)の証明
(a) 先の主登録の登録を以て、獲得した識別力を有するとの証明にする場合 先の登録を用いる場合には、先の登録にかかる商標と登録しようとする商標が同じ商標である必要があり、先の登録が2次元のロゴで登録しようとする商標が3次元商標である場合には同じではないと判示されています。識別力を獲得したことを主張するためには、TMEP §1212.04(e)で挙げられた言葉を使うことができます。
(b) 実際の使用により識別力を獲得したとする場合 実際の使用により識別力を獲得したことを証明する際には、資料として、登録しようとする商標を明確に宣伝する広告および販促資料、そのような販売促進に使用された広告費用、 登録しようとする商標を使用する代理人や消費者の認定書、商品および/または役務の登録しようとする商標の認識を確立するその他の証拠が挙げられます。原則的に5年間の概ね独占的で継続的な使用についての宣誓は識別力を獲得したものとなり得ます(TMEP §1212.05 )。
補助登録(Supplemental Register)
登録しようとする商標が主登録で拒絶される程度の識別力しか有していない場合でも、補助登録での登録を求めることが可能です。また、補助登録での登録への補正をしながら、主登録での拒絶の反論も可能です(TMEP §816.04)。補助登録と聞けば、主登録に比べて随分と見劣りするような印象がありますが、意外と必要な保護は可能な面もあります。補助登録では、次の事項が可能です。1)レジストレーションシンボルⓇを登録商標と共に指定商品・指定役務に使用すること。2)USPTOの検索データベースに登録すること。3)第3者の競合商標を後願としてを排除すること。4)第3者の無断使用に対して損害賠償や差止などを求める侵害訴訟を提起すること。4)他の外国への出願の基礎とすること。補助登録ができないのは、15条の不可争性の獲得と、CBPなどのボーダープロテクションの部分が主なところで、それ以外はほぼ主登録に比べてそれほど遜色はないような規定となっています。このため、単なる姓であることを理由とする拒絶を受けた場合でも補助登録に持ち込むことで、必要な商標の保護を図ることが可能です。

